■ 幼馴染み5


笑うと目が無くなっちゃうケンチは、特攻の一歩手前レベルらしい。

そう、哲也が特攻になってから、走りでわたしが哲也の後ろに乗る事は一度もなかった。

ほとんどがケンチの後ろ。


「ケンチ、ゆきみ怪我させるよーな事すんじゃねぇーぞ」

「はいっ!」


必ずケンチにそう言うのも哲也の仕事なんだろうか。


『哲也気をつけてね?』


特攻服から伸びた哲也の腕を掴んでそう言った。

煙草を吸いながらケンチを睨みつけるものの、わたしの言葉にすぐに口元に笑みを浮かべる。


「心配すんなって。そんな顔すんなよな、ゆきみ…」


ちょっと甘えた声の後、フワッと哲也の腕がわたしの腰に回された。

教室の時と同じで、オデコをくっつける哲也の瞳は至って真剣そのもので。

まさかの冗談!なんて展開はやっぱりなさそう。

ケンチや近くにいたチームの面子は、異様な雰囲気のわたしと哲也から慌てて視線を逸らして、まるで最初から見ていなかったかのよう仲間と会話を始める。


『て、哲也…?』


心臓バックバクのわたしはやっぱり何も出来なくて、哲也のされるがまま。

煙草の香りと香水が混ざってほろ苦くて…

哲也の視線が強くわたしを捕らえている。

ノリを見つめる切ない目とは違う、熱い視線がわたしに刺さってまた鼓動が速まる。

今日の哲也は甘い。

わたしに甘い。


「ごめんな、乗せてやれなくて」


目を閉じて温もりを感じるように哲也がボソッと言った。

わたしは哲也の腰辺りを視線が行き来してて、でも黙ったままで。


「何かあったら携帯しろよ?飛んでくから」

『ん』


ほんの一瞬哲也に抱きしめられたわたしは、その場で呆然としながら去って行く哲也の後ろ姿を見つめていた。

大型バイクに跨がる哲也はもういつ死んでもいいような鋭い目付きに代わっていて、エンジンをヴォンヴォン吹かしている。

わたしはそそくさとケンチの後ろに乗って体に強く巻き付いた。

タカヒロとノリの乗った暴走車がヴォオンと一回吹かしを入れると同時に、哲也が乗った銀のバイクが先頭きって走り出した。

あっという間に哲也の音が消える。

どうか無事で戻りますように。

そう願うだけ…



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