■ 違和感5
【side 奈々】
「そろそろ帰る?」
夏休みともなると家に帰る時間が遅くなる人が増えて、あたしもその波にのって深夜まで青倉庫にいるようになった。
それでもタカヒロはあたしの家まで行ってくれている。
あの日から、あたしは家に帰っていない。
家が、お母さんが心配でたまらないけど、タカヒロと一緒にいると気持ちが大きくなって怖い。
タカヒロをこれ以上好きになるのが辛い。
どれだけ想っても通じない。
どれだけ願っても伝わらない。
どうしようもなくって…
『うん』
行き場のない気持ちもあたしごと、ケンチは何も聞かずにただ側においてくれている。
もしもタカヒロに見つかったら?
ただじゃ済まされないって分かっていて、あたしを匿(かくま)ってくれてるケンチ。
どうしてあたし、ケンチを好きにならなかったんだろう。
「元気ねぇ?」
あたし専用のピンク色のメットを被せてくれながら見つめるケンチの瞳は優しくて、すぐに甘えが出そうになってしまう。
『そんなことないよ』
「家帰る?」
必ず聞くケンチのこの言葉に、あたしは毎回首を横に振ることしか出来ない。
家に帰ったらタカヒロがいるって分かる。
あたしを守ってくれてるタカヒロ。
あたしの家族ごと守ってくれてるタカヒロ。
一日足りとも約束を破った日なんてない。
だから今日もあたしは首を横に振ろうって思った。