■ 過去の過ち5
『ケンチと直人…どうしてる?』
話題を逸らしたあたしをジッと見据えるその瞳は、ちょっと怒っているようにも心配しているようにも見えて…
「奈々どうしたんだ?」
あたしの質問には答えてくれないらしい。
もしもあたしが今自分の気持ちを打ち明けても、タカヒロは受け止めてくれるわけがないのにそうやって見つめられると、抑えている気持ちさえも言葉にしたくなってしまう。
自分が傷つくだけの恋なんてしたくない。
『何でもない。タカヒロごめんあたし体調悪い帰りたい』
「…本当に何でもねぇの?」
『うんできれば家まで送って貰いたい』
ギュッてタカヒロの熱い手を握ると「分かった」ってちょっとだけ煮え切らないタカヒロの声があたしに届いた。
こんなに近くにいるのに
こうやって繋がっているのに
タカヒロを遠く感じる。
あたしがこの手を伸ばしたら迷わず掴まえてくれるんだろうけど、その心は絶対に捕らえることが出来ないんだ。
だったらいっそあたしのこと嫌いになってよ。
そんな風に優しくしないでよ…
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その日を境に
あたしは家に帰らなくなった。
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