■ 幼馴染み4


夕方。


今日の走りはいつもより人が多く感じる。

【one】のたまり場は青いレンガで出来た大きな倉庫で、地下にバーとその奥にVIP部屋があって、そこにはたいていタカヒロとノリがいる。

冷暖房、ソファー、テレビ、冷蔵庫、シャワー、トイレがしっかりと完備されていてそこに入れる人数は限られていて。

特攻と呼ばれる人以下には許されない空間だった。


わたしはチームに入っているのかさえも分からないし、哲也がいなきゃその部屋には決して入らない。

タカヒロはいいよ…って言ってくれてるけど、あの部屋は正直あまり好きじゃなくて。

だからほとんどは上の倉庫で過ごしていた。

バイクを弄る哲也はずっと倉庫の外にいてくれるから。

目に見える位置に哲也がいるってだけでわたしは安心できるんだ。

でも走りがある時に、哲也が下っ端の奴らが起こす粗相の皺寄せをしに行かない日なんかなくって、その度にわたしは生きた心地がしなかった。

それまでわたしを乗せていた哲也は絶対わたしをバイクから下ろすから。

たった一人で現場に向かうから。

その後ろ姿を何度見送ったか。


今日は何もありませんように。


ただ、そう願うだけ。


「ゆきみちゃん車乗る?」


特攻服を着たタカヒロが暴走車のドアを開けてわたしを呼んだ。

隣に座るノリはただそこに座っているだけで特に何もしていない。

ただ、タカヒロの腕に巻きつくみたいに身体を寄せているだけ。


あの空間はやっぱり好きになれない。


哲也は特攻だから先頭を走って道を作る役目。

女なんて乗せる危険なまねはしない。

だからわたしはたいてい適当にバイクの後ろに乗せて貰うことが多くて。

それなのに毎回こうしてタカヒロがわたしに声をかけてくれるのは、哲也を危険に晒すからせめてゆきみだけは守ってあげる!

…そう言われているみたいって、捻くれた考えしかできないわたし。


『乗らない』

「分かった」


残念そうにそう言うなんて。


『ケンチ乗せて!』


わたしが頼むのはいつもケンチ。

一歳年下のケンチ。

バイクの運転が上手くてみんなに優しいケンチ。


「オッケー」


座って煙草を吸っていたケンチに近づくと、笑顔で立ち上がった。

真っ黒な短髪はいつもきちんとセットされていて、作り上げられた肉体は安心出来る。



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