■ 幼馴染み3


そして、わたしと哲也は付き合ってる訳じゃない。

ただ哲也はわたしを側に置いてるだけ。

そこに愛だの恋だのって感情はない。

あるならば、ただの情なんだと思う。

幼馴染だからわたしの面倒見てくれてるってそんな感覚なのかもしれない。

それでも何でもわたしは哲也の側にいられるのなら構わない。


例えば哲也がわたし以外の人を好きだろうと…。


でもあんな風にちょっと照れるような事をされたのは初めてだから、正直吃驚していた。

哲也が触れた唇と頬が熱くて、まだその余韻が残っている。

ほんの少し赤い顔のまま視線を奈々に移すと、奈々はわたしを見て微笑んでいて。


『奈々が思うような関係じゃないんだ、わたしと哲也は』


残念なお知らせに、案の定顔をしかめた。

わたしの言った事がさぞ意味不明に聞こえたらしく。

眉毛を下げてわたしをジッと見つめた。


『付き合ってるんじゃないってこと?』

『うん、付き合ってない』


何も言われてない。

哲也からそんな甘い言葉を言われた事はただの一度もない。

幼馴染のわたし達。

小さい頃からずっと一緒だから離れる理由もない。


ただそれだけの事。


恋愛感情を持っているのはわたしだけ。

だって哲也は中学の時からずっとノリを見ているから。

タカヒロの隣にいるノリを見ている。

その目は悲しくも、恋する瞳…

知られちゃいけない悲しい恋心。

奈々がリンチを慣れっこと言うなら、わたしは哲也がノリを見つめる事にすら慣れているんじゃないかって。

そんな事、慣れたくなんかないのに。


『ゆきみは好きなの?』

『…幼馴染、それだけだよ』

『そっか』


それ以上奈々は何も聞いて来なかった。

どういうつもりで黙ったのか分からないけれど、逆に黙られると気持ちを読まれた感じがしてしまう。

それは…誰が見ても分かるに違いない、わたしの哲也への気持ちで。

こうして奈々にも隠す必要があるのかな。

タカヒロだって、ノリだって、哲也でさえきっと気づいている。

気づいていながらわたしを側に置く哲也の気持ちは¨幼馴染¨以外の何でもないんだと思う。

嬉しくない訳じゃないけど、悲しくもある。


わたしは哲也の心が欲しい。

ノリになれないわたしの戯言。


わたしは哲也の心が欲しい。



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