■ 事件勃発3


『奈々はどこ?』


思いきり睨みつけてそう聞いた。


「黙れ」


ピシャってそう言われどうやら威嚇しているようだけど、こーゆう言葉遣いに人より慣れているんだろうわたしは、相手に怖さなんて感じなかった。

むしろ妙に冷静な自分がいる。

両手を縛られているわたしは、座らされているソファーから下手に動こうとは思わなかった。

無駄に殴られでもしたら、たまったもんじゃない。

それこそこの人が哲也に殺されるんだろうなってそんなこと考える余裕すらあった。

でもそれは「一馬」って名前を聞いたからだと思う。

本気でわたしを狙う奴は、ここにはいないって分かったから。

少しの後、カチャッて音がしてドアが開くとわたしの前に姿を現したのはさっき呼ばれたんだろう、一馬。


『どういうつもり?一馬』

「女がそんな低い声出すなよな、ゆきみ」


煙草を加えたままわたしに近寄るその顔は、わたしの哲也とうりふたつ。

見かけは全く違うものの、顔のパーツや出てくる声は哲也とうりふたつ。


『わたしのツレはどこ?』

「あれがタカヒロのお気に入り?すっげぇ美人じゃん!」


…なにこいつ、どこまで知ってんの?

タカヒロが奈々を気に入っている事実なんて、わたし達しか知らないはずなのに。

それを意図も簡単に口にするこいつ…

一気に全身震えが込み上げるわたしは、一馬から目が逸らせない。


『一馬、何が目的?奈々は帰して、わたしがあんたの側にいるから』

「へえ。だてに哲也の女じゃねぇって?度胸だけはあんじゃねぇか!!…でもゆきみ、今回は、お前がメインじゃねぇ」


一馬の言葉にわたしは鳥肌が立った。

不適な笑みでわたしを見つめるその顔は哲也とうりふたつだけど全然違う。


『哲也もタカヒロも黙ってない!わたしと奈々をこんな目に合わせて!!何が目的よっ?』


答えそうにないその質問を再び一馬に投げたわたしはもう、一歩も引けない。

まさかの奈々が目的だなんてそんなこと信じない!!



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