■ 事件勃発2


それは、てっきりわたしが目的だと思った。


後退りする奈々の視線の先には、見るからにガラの悪い男子が三人。

色とりどりの頭がやたらと目立っていて目障り。

悲鳴をあげそうになる奈々の口元を白いハンカチで拭うとダランと奈々が気を失う。

ヤバイ!!


『ナオッ…』


クタ…

頭が痛くなるような臭いが顔中に充満して、全身の力が抜けていく。

それでも奈々と繋がってるこの手だけは離さないって思った。

遠退く意識の中でケンチと直人の声が聞こえた気がした―――




――――――――…




今まで哲也が本気でキレた所をわたしは見た事がない。

哲也が本気で喧嘩している所も見た事がない。

哲也の弱ってる姿は何回か見た事がある。

哲也の傷ついた姿は何度も見た事がある。

わたしにその姿を曝さないのは、哲也は分かっているから。

わたしが泣き虫で弱い子だって分かっているから。

昔から「ゆきみに泣かれるのが一番辛れぇ」って言ってたから。

いつしかわたしは哲也の前で涙を堪える癖がついた。

一緒に居たいから、離れたくないから、わたしは泣く事を我慢するんだ。

どんなに悲しくても、どんなに辛くても。

でもそれでも哲也はそんなわたしの気持ちを無視しないでいてくれる。

哲也に抱きしめられて背中を撫でられると溢れてくる涙を、哲也は何も言わずに受け止めてくれる…

わたしは哲也がいないと生きていけない。

例え想いが届かなくとも、哲也の側に居たい。

わたしの願いは叶う?





――――――――…




『っつぅ…』


どっかに頭を激しくぶつけたんじゃないの!?って程の頭痛と気持ち悪さで目が覚めた。

湿った空気がわたしの肌を包み込む。

窓のない部屋。

見渡す天井は真っ白…てか部屋全体真っ白だった。

なに、ここ?

マジで気持ち悪い。


「起きたぜ、一馬呼んでこい」


そう言ったのはTSUTAYAで会ったうちの一人。

どうやらわたしを監視していた様子。

右手の温もりはなくって、この部屋にいるのはわたし一人と監視野郎。



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