■ 謹慎の理由3


ビビッてるケンチには悪いけど、わたしは哲也のあんな姿が見れてすっごい嬉しかったって思う訳で。

少なくとも直人を謹慎にした理由は、哲也のヤキモチも含まれているんだって思ってしまうわたし。

そんなご機嫌なわたしを乗せたケンチのバイクは、謹慎中の直人を迎えにエンジンをかけた。





「反省文は書いたのか?」


苛々感満載のケンチに思わず笑ってしまうわたし。

ケンチってば、これじゃあ直人に八つ当たりもいいところだよ。


「書いてないっすよ〜。哲也さんに本気で殺されるんじゃねぇか…って…」


出て来た直人は本当に落ち込んでいて、ちょっと可哀相になってしまう。


『直人〜…ごめんね』


よしよしってわたしが直人の頭に手を乗せると、直人は視線だけわたしに向けた。

直人の告白以来のわたし達。


「自分…本気で命かけて守りますよ…ゆきみさんの為なら。哲也さんに殺されても…」


ドキっとするような直人の視線と言葉に、わたしは大袈裟に手を振った。


『なっ…何言ってんの…』


こうやってまともに告白を受けるのは正直初めてで、どう対応したらいいかなんて分からなくて、わたしは更に直人の背中をバシッと叩く事しか出来ない。


例えばわたしが直人を選んだのなら、今みたいな不安はないのだろうか?

哲也に対する不安なのか不満なのか、分からないどっちとも言えるこの感情はなくなるんだろうか?

そんな事考えてみた所でわたしの気持ちが変わる訳もなく、この先直人を選ぶ事もないんだろうな。


「なんて、困らせる為に言ったんじゃないんで気にしないで下さい」


そう言って直人が笑った。

その笑顔は決して喜ばしい笑顔じゃなかったけれど、わたしを困らせないと言った直人はちょっとだけ吹っ切れたような顔でもあった。


人の幸せの裏には、誰かしらの悲しみがあっての事なのかもしれない…

タカヒロとノリの幸せの裏には、哲也の悲しみがあったと思うと、わたしの胸は痛いけど…

わたしを抱きしめてくれた哲也の腕を

わたしを自分の女だって言ってくれた哲也の瞳に嘘はないって信じたいんだ…



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