■ 親友の秘密6
【side 奈々】
ヴォーン…と聞こえていたバイク音が止まると、数分後にあたしの携帯が鳴る。
「今から行くな」
聞き慣れたタカヒロの声にあたしは自然と玄関で到着を待つようになっていた。
遅いから迷惑だからって、チャイムは鳴らさないでコンコンてドアを叩くタカヒロはずぶ濡れで立っていた。
「悪りぃタオルある?」
『あ、うん…待ってて』
廊下を走って洗面所からバスタオルを持って来てタカヒロを拭く。
一通り拭くとあたしの部屋に入って壁側に座ると、小さなテーブルの上に置いてある灰皿に手を伸ばした。
『寒くない?』
初夏まで到達していないものの、こんなに雨に濡れたらさすがに身体は冷え切ってしまうんじゃないかって。
いつもは赤みの強いタカヒロの唇は、心なしか紫色っぽく変色している。
ずぶ濡れのままバイクを運転して来たタカヒロの髪はフニャフニャしている。
「平気。奈々寒いのか?」
何食わぬ顔で、煙草を持ってない方の腕を差し出してあたしを見た。
え…なに?その手…
差し出された手にそっと触れると氷みたいに冷たくて、あたしはビクッと体を震わせた。
それがあたしが寒くて震えたのかと思ったらしいタカヒロは、
「寒いのか」
そう聞いて。
自分の方が絶対に寒いはずなのに、こうやってあたしの心配を第一に考えてくれるんだ。
本当にここにいる間中ずっと、タカヒロはあたしを甘やかしてくれる。
『違うよ、タカヒロが寒そうだなって思って』
「そうか?」
笑っちゃうくらい自分に鈍感なタカヒロ。
しばらくの間、あたしの手を握ったまま煙草を吸っていた。
不意に、ガチャガチャって玄関から聞こえてきた音に又体を震わせるあたしは、強くタカヒロの手を握った。
タカヒロの視線はジッとあたしの部屋のドアを見つめていて、ゆっくりと足音が通り過ぎるのを静かに確かめていた。
お母さんの所に入らないように。
足音は奥まで行ってパタンとドアを閉めた音に消えた。
しばらくするとあたしの携帯にメールが届く。
それはお母さんからの「おやすみメール」。
それを見るとホッと一安心してあたしは視線をタカヒロに移した。