■ 好きすぎて…3
【side 奈々】
世間でいうGW最初の暴走は走り始めて30分で、大雨が降ってきた。
車の面々は濡れる事はないから何等変わらないけど、バイクに乗っている面々はあきらかにびしょ濡れというのに、この暴走を止めようとする輩はいなかった。
薄手の特攻服は体を濡らしてどんどん冷やしていく。
「ケンチ、倉庫戻るぞ。奈々に風邪ひかせんじゃねぇ」
暴走車の後部座席から顔を出してタカヒロが低い声を出した。
あたしはケンチに捕まりながらも視線は目一杯タカヒロに向けていて、あたしを見つめるタカヒロの瞳は優しく感じた。
タカヒロと同じ暴走車の助手席には、珍しく哲也くんが座っていて、その目は寂しそうに見えた。
ゆきみを乗せた直人の姿はどこにもなくって、本当は走りながらずっとゆきみの事を考えていた。
好きだから、好きだからゆえに擦れ違ってしまう想いってなんなんだろう…
ゆきみを目の届く位置に入れておけなかった哲也くんは、寂しそうで苛々している。
どう見たって心配しているって感じなのに。
一言「好きだ」って言葉を言うのには、そんなに何かが必要なんだろうか?
あたしにはよく分からないけれど…覚悟とかそういうのが。
哲也くんの立場っていうのもあるのかもしれない。
本当にゆきみを哲也くんの女にしてしまったら、他人のゆきみに対する態度が変わるのかな?
どんな事があろうとも全力で守ってくれるだろう哲也くんは、何を躊躇しているんだろうか?
あたしには分からない…
ケンチはあたしを下ろすとタオルをあたしの体に包むように巻いてくれた。
自分だってびしょ濡れなのに。
「奈々ちゃんシャワー浴びてきな、風邪ひいちゃうから」
タカヒロと彼女を指差して哲也くんがあたしの背中を緩く押した。
…すこぶる気まずいじゃんあたし!
彼女絶対あたしの事よく思ってないのに…
だから…
『だ、大丈夫』
遠慮じゃなくて、まぁ遠慮もあるけど、そう言ったらタカヒロが振り返って「いいから来いよ」って一言。
あたふたするあたしに視線を向けてるから、仕方なくあたしはフラフラと二人の後を着いて行く。
あれ?哲也くんは??
そう思った瞬間、この土砂降りの中哲也くんの大型バイクが青倉庫から出て行った。