■ コイバナ5
でもそれは、ゆきみに気持ちを押し付ける事になって、そんなこと勿論出来ない上に、ここにいるほとんどの人は哲也くんの女はゆきみってレッテルがはられている。
それを自分の想いで壊す事は許されない。
何より、ゆきみは哲也くんしか見ていない。
哲也くん以外を好きになることはないって、誰もが分かっていること。
『どんなに大事でも?』
「大事だから。好きだからちゃんと伝えたい…って思います」
直人が寂しげに笑った。
「報われねぇな〜」
ガクッ!
何となく直人に気使って黙っていたあたしの気持ちなんかお構いなしに、ケンチが煙草片手に地べたに座った。
『ケンチ?』
「哲也さんて、意外と鈍感だよな、そういう面に関して。直人の超分かりやすい気持ちにも気づいてねぇのかも…」
ケンチはそう言うけど、そんな訳なくない?
今だにあたしは、哲也くんとゆきみは相思相愛だと思っていて…
そんな風にゆきみを見ている哲也くんが、直人の気持ちに気づいてないなんて事、あるわけないよ。
気づいているけど、それを拒否しないのも、ゆきみの気持ちを思うと辛いけど。
どうしても、哲也くんは何かを抱えているような気がしてならないんだ。
『で、ケンチは?』
「だからお前」
得意げに、ニカッて笑うとどっかへ行ってしまった。
あたし今完全に遊ばれてる!
そんな平和な時間がいつまでも続いてほしかったあたしの願いは叶う訳もなかった。