■ コイバナ2


『わたし奈々に嘘ついてた』

『え?』


少し自嘲的な笑顔を浮かべるゆきみに、あたしは心が躍りあがった。

ゆきみが打ち明けようとしてくれていることに嬉しくて。

あたしは半興奮気味を隠すようにアップルジュースをゴクゴク飲みほした。


『…哲也以外好きになった事ないのわたし…』

『うん』

『っていうか、哲也以外好きになれないみたい(笑)』

『う、うん』

『でもそれはわたしの気持ち。わたしはね、哲也に好きだとか付き合おうとか言われた訳じゃないの』


なんかもう、声を出すのも苦しかった。

笑っているのに泣いてるようなゆきみの顔とちょっとだけ震えた声は、哲也くんへの想いの強さを無言で物語っているようで。


『だからみんなが思うような関係って言えない。残念だけど…』

『………』


クラス内は自習だからってワーワー騒がしいのに、あたしはゆきみの小さな声を鮮明に聞きとっている。


『でも、哲也がわたしを好きじゃない?ってそうとも言いきれないよ…』


ふふって笑うゆきみはちょっとだけ嬉しそうで。

あたしはずっと、哲也くんとゆきみの想いを本物だと信じているわけで。


『わたしを気にしてくれてるのは分かるし、何かあったら絶対守ってくれるって思ってる』

『………』

『そういう言葉は口に出してくれるから…』


そこまで言われてるなら決まりじゃないの?

何が違うんだろ…

ゆきみはまたチラッと哲也くんを振り返る。

1ミリ足りとも動いていない哲也くんに少しホッとした表情を見せた。


『でも肝心な言葉は貰えてないし…そういう事もしてないし。こんな風に一緒にいてお互い好きだったらそういう事ってするもんでしょ?』


あまりにサラっと言ったから、あたしはその意味が一瞬分からなかった。

どういう事…??

そう思ったあたしに、何故か上半身裸のタカヒロが不意に浮かんで…パンッと音を鳴らしたように顔が真っ赤になっていく。

あ、そういう事ね…

無駄にバクバクする心臓を手でそっと押さえて視線をゆきみに戻した。


『顔、真っ赤だよ(笑)』


人差し指で鼻の頭をゆきみに突かれて…


『ははは…』


苦笑いしか出来ないんだけど…



- 62 -

prev / next

[TOP]