■ 叶わぬ想い8
「何してやがる」
四回程ビンタをされた時だった。
低い声が響いて、振り返ったそこにはその場にいた全員がビビりあがる程にこっちをジッと見ているタカヒロがいた。
「お前らか、チョロチョロしてんのは」
『ち、違います!!』
「嘘つくな」
静かな口調は余計に恐怖を誘うようで。
タカヒロの視線はあたしの頬に移って、そっと大きなその手に包まれた。
「真っ赤じゃねぇか」
ジロッとタカヒロが睨む相手は、完全に足がすくんでいてビクビクしている。
「どうしてくれんだ?」
『………』
「こんなにされて黙っちゃおけねぇな俺」
『………』
「答えらんねぇのか」
『………』
「だったら二度と俺を怒らすような事すんじゃねぇ」
『………』
「分かったらもう行け、邪魔だ」
バタバタバタ…
泣きそうな顔で去って行く集団の後ろ、ポツンと取り残されたあたし。
『ありがとう…』
「…ムカつく!」
ブスッ面で小さく呟くタカヒロは、もうあの怖さは感じなくて。
『え?』
「奈々に手上げたあいつらが…」
ブスってした顔を見せながらも、感情を押し殺せていないタカヒロの表情に、あたしは胸が大きく揺れた。
学校内でタカヒロと二人きりになることなんて滅多になくて。
又、こうやってあたしを助けてくれたタカヒロを…―――
「ごめん守ってやれなくて」
叩かれた頬に触れる手はやっぱり大きくて、それ以上にあたしの心が乱れたのは言うまでもなかった。