恋のかけひき2




あれから何日たったんだろうか?

メンタルに弱い俺は部屋に引きこもっていた。

勉強もしない、何もしないでひたすら眠っていた。

何時間でも眠れたんだ。

このまま何もかも忘れて眠り続けたい…

失恋の痛手はこんなにも俺の心を蝕(むしば)んでいる。



「お兄ちゃん!いい加減出てきなよ!」



何日目なのか、美月が部屋をノックする音に目が覚めた。

タオルを持ってシャワーを浴びようとドアをガチャっと開けると、目の前にゆきみ。

え?幻覚?幻?俺ヤバイ?



「あ、直ちゃん!出てきた!」



ガチャっと開けたドアを閉めると「直ちゃん!?」聞こえるのはやっぱりゆきみの声で。



「え、ゆきみ?」

「そうだよ!ドア開けてよ?」

「え、うん」



幻覚じゃないことを願って。

ガチャっと開けた先、そこにいたのはやっぱり俺の最愛のゆきみ。



「美月に連絡貰って。こんな可愛い妹に心配かけて、ダメな兄貴だぞ、直人!」



コツっとゆきみの拳が俺のおデコにくっつく。

久しぶりのゆきみの香りにドキッと胸が高鳴る。

グレーだった世界が鮮やかに色付くような感覚だ。



「…ごめん」



ゆきみの後ろで泣きそうな美月を見て胸が詰まった。

いつだって美月は俺の味方でいてくれる。

こんなダセー兄貴なのに見捨てずに俺を信じて待っててくれる美月。

俺が守ってあげなきゃなのに、情けねぇ。



「美月ごめん。俺強くなるから…」

「ばか、兄ちゃん…」

「ふふふ。よかったね、美月!」



後ろを振り返って美月の頭を撫でるゆきみに、マジで家族になれたらいいのにって思わずにはいられない。

俺がうかうかしている間に、ゆきみはこの先何度だって哲也に抱かれるかと思うとやりきれなくて。



「ゆきみ、デートしようよ?」

「デート?」

「うん!あ、美月、彼氏連れてこいよ。俺とゆきみが見定めてやるから!4人で映画でも見に行こうぜ?」



美月達を引き合いに出すのはズルイと思ったけど、やっぱりゆきみを哲也に渡したくない。

いやもうすでに哲也のものなんだろうけど。

諦めたらそこで終わりっすよね、安西先生!

俺やっぱゆきみのこと、諦められねぇ!



「お兄ちゃん、いいの?」

「おう!俺シャワー浴びてくるから呼んどけよ」



部屋を出て洗面所に向かう俺に聞こえたゆきみの声。



「直ちゃん、私の意思はスルー!?」

「スルーだよ!俺がゆきみとデートしたいもんっ!」

「もうっ!哲也に言うからね!」

「ダメダメ!哲也には内緒!言ったら今日泊まりだぞ!」



時に強引に。

時にはあっさり引く。

今は押し時だろ。

それほど嫌そうに見えないゆきみに俺は嬉しくて小さくガッツポーズをした。



「強引なんだから!」



そう聞こえたゆきみの声も、こころなしか、楽しそうに聞こえたんだ。



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