恋のかけひき1
ゆきみとのキスがバレたのは、翌日のことだった。
「直人!起きろよっ!一発殴らせろ!」
朝っぱらから容赦のない声が聞こえて。
まだ完全にベッドの中にいた俺からシーツを剥ぎ取ったのは哲也。
珍しく怒った顔で俺を見下ろしている。
「な、なに?」
「お前、俺の女にキスしたな?」
哲也に言われて昨日のキスを思い出して身体も顔もカァッと熱くなる。
「うん、した!」
素直にそう言うと、怒っていた哲也の眉毛と口が同時に下がった。
小さく溜息をついて勉経机の椅子に座った哲也。
「そんな嬉しそうな顔しないでよ、怒れなくなんだろ…」
昨日のゆきみと同じことを言う哲也。
ちょっと困ったように、でも強く言えないって顔。
「ごめん。けど我慢できなくて…」
俺だって自分でもこんな熱い男だと思ってなかった。
哲也の彼女って立場よりも、自分の気持ちが勝つなんて、思ってなかったんだよ。
「どーしてくれんの、俺達のこと…」
「俺はただ、ゆきみが好きなだけ」
「お前何で今なんだよ…俺と同じタイミングでくんなよ、直人」
「それ関係ある?今だからゆきみが好きなんだよ!哲也にだって渡したくない!」
キッパリと自分の想いを口にした時だった。
美月とゆきみが揃ってこの部屋に入ってきたんだ。
俺の言葉が聞こえていたのか、苦笑いのゆきみ。
逆に美月は嬉しそうで。
「てっちゃんごめんなさい。お兄ちゃんまさかキスしちゃうと思ってなくて。そんな勇気お兄ちゃんにはないと思ってたから…」
実の妹にそんな言われ方。
いや、そんな勇気って、俺をどんな兄貴だと思ってるわけ?
思わず美月をジロッと睨むとゆきみの影にスッと隠れた。
あのやろ。
「まぁ俺もその辺ではちょっと直人に対して焦りはなかったんだけど。でももう二人きりで会わせらんない!」
「ちょっと待ってよ!そんなの無理だよ。俺ゆきみに逢いたいし!」
気持ちが本人にバレているってだけで、こんなにも我が儘になれるなんて思わなかった。
本当なら幼馴染みで親友でもある哲也の彼女に手出すなんて有り得ないし考えない。
けど相手がゆきみだってだけで、どうにも引けない。
震えるゆきみの涙を見たあの日、決めたんだ。
俺がゆきみを幸せにすると。
男に二言は無い。
俺の愛は消えない。
「こっちも無理だ。直人さ、俺マジで好きなのゆきみのこと。おままごとでも同情でもない、本気でゆきみのことお嫁さんにしたいって思ってるよ。だから頼む、邪魔しないで?」
余裕の見えない哲也の言葉に怯みそうになる。
横入りして壊そうとしているのはこの俺で。
もしも俺が哲也の立場だったなら、そこまで言われたらゆきみを譲るんだろうか?
それとも断固として断るのか……
「ゆきみは?ゆきみは俺の気持ち、迷惑?」
「え……」
「俺がゆきみのこと好きって思うのは迷惑?やめて欲しい?」
急に話をフラれたからか、ゆきみは目を見開いて俺を見ていて。
それからスッと目を逸らして俯いた。
「迷惑だとは思ってない。けど…応えてあげられないよ、直ちゃんの気持ちには。直ちゃんのこと大好きだけど、哲也ともう……」
そう言って言葉を止めたゆきみ。
その頬はちょっと紅くて。
なんならそんなゆきみを愛おしそうに見つめる哲也。
え、まさかのアバンチュールしちゃった?
お前らもう、ヤッたの!?
「ゆきみとヤッたの、俺。だから直人の入る隙はない!それだけ。いいな直人、ゆきみと二人きりで会うなよ?」
そんな約束できない。
そう言いたいのに、二人の現実が俺には衝撃的過ぎて何も言い返せない。
いや俺だってAVの5、6本は持ってるし、見てるし興味あり。
実際自分が?って所までには至ってないけど興味はある。
健全な男だし。
そりゃ夜な夜な一人で抜きます、結構頻繁に!
けど、けど。
女になっちゃったの、ゆきみ?
足開いたの?哲也の前で……
「じゃあ俺達帰るな。美月ちゃん、直人を頼むよ?」
「うん…」
ゆきみの手を引いて俺の部屋から出ていく哲也。
絶望しかない。目の前真っ暗。
「お兄ちゃん?」
「…一人にして」
俺の冷たい言葉に美月は静かに部屋から出て行った。