伝えたい本気4




さっきの勝負、ゆきみの圧勝で。



「マッサージして!」ってゆきみの言葉に仕方なく手を這わせた。


―――ものの、わざとらしく大声で喘ぐもんだから恥ずかしくなってきたわけで。


俺をからかってるんだって分かるけど、正直身が持たない。


下半身の心配もしてほしいくらいだよ、全く。




「直ちゃんも健全な男の子だったね、ごめぇん」




ニッコリ微笑むからゆきみが。


無防備に俺の部屋の俺のベッドの上で両手を広げてすげぇ薄着で笑うもんだから…。




俺はそのまま勢いよくゆきみの上に身体を落とした。


トンって顔の横に手をついて、ゆきみの上に跨りながらゆきみを上から抑え込む。



突然の出来事に目をまん丸くしたゆきみは、すぐに目を泳がせて「ばか直人…」そう言う。


けど真上にいる俺を拒否することもなく目を逸らすだけで。


そのまま額をゆきみの胸元に乗せてギュっと抱きつく。


ドクドク鳴ってる心臓が、俺の音なのかゆきみの音なのかも分かんないくらいで。




「答えて欲しい…――なんで哲也と付き合ったの?…なんで…」




俺じゃなくて、哲也なの?


俺の下でジッとしていたゆきみが小さく息を吐いた。


ゆきみに抱きつく俺の背中に腕を回して子供をあやすみたいにポンポンってする。




「直ちゃん、受け止められる?」

「え?」

「…怒ったりしない?」

「…うん」




真剣なゆきみの表情に俺は小さく頷く。




「栄斗高の男に私…途中までヤラれちゃって…。遊ばれただけだって気づかなくて本当に好きだって思ってたけど、私が処女だって分かったらそのままホテルに置き去りにされて…てっちゃんに迎えに来て貰ったの…」




微かに震えるゆきみの身体。


思い出して恐怖なのか、怒りなのか…―――俺はギュっとゆきみを抱きしめる。




「その時てっちゃんが言ってくれたの…”俺が一生ゆきみの傍にいて、ゆきみのこと守る”って。どうしたらいいか分からなくて…でもてっちゃんが傍にいてくれるならきっと私、一生笑顔で過ごせるって思えた。だからてっちゃんを信じてついていく…もう他の男の人は、信用できない…」




ゆきみにそんなことが起きていたなんて気づきもしない。


なんで哲也を呼んだのか?


俺じゃなかったのか?って、その時点できっと、ゆきみの心には俺よりも哲也の方が多くいたんじゃないかって思えた。


直人…って浮かぶよりも、哲也って心に浮かべたゆきみのそれが本心なんだって。




「…何の役にも立てなくてごめん…俺最低。ゆきみが一人で苦しんでるときに何やってたんだよ…」

「直ちゃんには…知られたくなかった…」




そう言って顔をそむけた。


目を閉じてるけど分かる、ゆきみが泣いてることが。


そこにどんな気持ちがあるのかゆきみじゃないと分かんねぇけど…―――




「俺が忘れさせる。どんな闇もゆきみから消し去って幸せにしてみせる…。信じて俺を…」

「…直ちゃん…」

「好きだ…ゆきみのこと…この世界の誰よりも一番、大好きだよ…」




精一杯の想い。


届く、届かないじゃなくて、ただ伝えたかった。


ゆきみが俺をどう思ってようと構うもんか。


俺がゆきみを幸せにしたいって。


俺が一番だって、言わせてやるって。



ただそれだけだったんだ。




「それって直ちゃんの本気?」



確かめるようなゆきみの言葉に「ああ、本気。俺がゆきみを幸せにしてみせる」…哲也の彼女に向ってなんて台詞だって我ながら思うけど。


それでも今、伝えないとダメだと思った。


迷う暇も、悩む暇もきっと恋愛には与えて貰えない。


1分1秒が命取りになる…


この抑えきれない気持ちはいつだってゆきみに真っ直ぐに伝えていきたい。




「じゃあ哲也に言っておく」




そう笑うゆきみに、俺はゴクっと唾を飲み込んだんだ。




そうして、この日を境に俺と哲也のゆきみをかけた戦いが幕を開けた―――







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