伝えたい本気2
三人で食べる晩飯のうまさったらない。
ゆきみの作ったちょっと薄味な冷やしうどんを美月も一緒に食って俺達は庭で花火の準備を始めた。
「たっくんも呼びたいな…」
ポロっと美月が小さな声を漏らしたけど、兄貴としては聞き逃せないわけで。
「たっくんと付き合ってるのか、お前…」
ロウソクを立てながら花火を選んでいる美月に視線を向けると「うんっ!」笑顔で答えた。
…そんな顔で言われたら何も言えないんっすけど。
「たっくんは同じクラスのイケメンだったよね?」
「うん。みんなは岩ちゃんって呼ぶけど美月は別の呼び方で呼んで欲しいって言われて…たかのりだからたっくんって呼んでる〜」
「なるほどねぇ。写メないの、写メ?」
「あるけど…」
「けど?」
首を傾げて美月のスマホを覗き込むゆきみは、次の瞬間目を大きく見開いた。
「…これは!!!すっごいイケメンじゃん!え、ジャニーズ入れるんじゃないの、これ!てか美月…」
ゆきみが美月の顎を掴んで口元をムウってさせている。
「これ直ちゃんには見せちゃダメだね」
「えっ!?どんなのっ!?」
思わず振り返ってそっちに足を一歩踏み出すと、慌ててゆきみが目の前に来て俺を止めた。
ギュって俺の腕を引っ張って美月の方へ行くのを阻止してるんだろうけど、掴まれた俺は内心バクバクしちゃってて。
甘いゆきみの香りに意識が飛びそうだ。
「直ちゃんはダメ。身内は見ない方がいいっ!」
「いや、そう言われると見なきゃダメじゃねぇ?」
「でもショック受けちゃうよ〜。妹が彼氏とラブラブしてるのなんて見たら」
ジロっと美月を見つめる俺の頬に手をかけてクイっと自分の方に視線を向けさせるゆきみ。
ち、近い…。
息がかかる距離にゆきみがいて、美月の写メ云々じゃなくなってきそうで。
「分かった、分かったから…。ゆきみ離して」
辛うじてそう言う俺を見てゆきみが首を傾げた。
ジーっと真っ直ぐに俺を見つめるゆきみにドキドキする。
「ゆきみ…?」
「な〜んか変!美月、直ちゃん何か私に隠し事してない?」
あえてなのか美月にそう聞くゆきみに、美月がブッと噴き出した。
おいおい、んな分かりやすい反応はやめろ!
そう思いつつも俺はゆきみから視線を逸らすことしかできなくて。
「あはは、お兄ちゃんゆきみさんに告っちゃえば!?」
軽々しく俺の気持ちを公言する美月をパコンっと軽く叩いた。
笑いながらよける美月に憎悪すら浮かんだものの…
「え、直ちゃんやっぱ私のこと好きなの?」
まさかのゆきみの言葉に驚きを通り越して目が点になった。
「やっぱって…」
「哲也がいつも言ってる。直人には負けらんないって…。だから直ちゃんは別に私のことなんて何とも思ってないよ?って言っても、聞く耳持たなくて…」
…なんでみんな分かるんだよ…。
俺でも気づかなかったゆきみへの気持ちに、何でみんな分かるの?
鈴木も、美月も…―――哲也まで。
「あのゆきみ…俺…」
「でも遅いよ直ちゃん。私哲也と生きていくって決めた。もう決めたの」
まるでゆきみ自身に言い聞かせるような言い方に思えた。
その心の奥底にどんな気持ちがあるのかなんて分かんねぇけど…。
「じゃあゆきみさんが美月の本当のお姉ちゃんになることはないの?」
俺を無視して続く美月の言葉に、ゆきみは一つ視線を逸らした後、真っ直ぐに俺を見た。
「もしもそうなるとしたら…直ちゃんが本気になった時じゃないかなぁ…」