恋に気づいた日5
「さっきはごめん…」
ゆきみと哲也にそう言ったら何て返されるんだろうか?
二人とも「いいよ」って言うのは分かってる。
いつだって喧嘩を引きずることのない俺達。
結局最終的には許すんだから、怒っているその時間がもったいないって思うわけで。
だんだんゆっくりになる足取りのままノロノロとゆきみの家の前まで行くと、ちょうど玄関の前にいたゆきみと哲也。
ああ二人揃ってるちょうどいいな。
そう思って一歩足を進めて小さく口を開いた。
「さっきはごめん…」
そう言う前に息を飲み込む。
ゆきみを玄関の前まで送ったんだろう哲也は、そのままゆきみを玄関のドアに押し付けて迷いなく顔を寄せた。
ほんのり高揚させているゆきみの頬に手を添えて哲也と重なり合う…
ゆきみの瞳が閉じられて哲也を待ちながらもゆっくりと呼吸をするのがスローで俺の目に映った。
ドクン…ドクン…―――心臓が大きく音を立てる。
そこにいるのは俺の幼馴染じゃなくて、ただの男と女だった。
唇が触れ合うとそんな音がするんだ…
離れる時も、そんな音がするんだ…
何度となく重ね合わせる二人を、俺はただ見ていた―――
「哲也…帰れないよ…」
「帰したくないもん」
「ズルイそんなこと言うの」
「ゆきみ…」
ギュっとゆきみを引き寄せて胸に抱く哲也に嫉妬すら生まれる。
再び唇を重ね合わせる二人をこれ以上見てらんなくて…
ゆっくり物音をたてないように、その場を後にした。
俺がアイス屋からいなくなった所で、あの二人に流れている空気は何も変わってもいなく。
俺がそこにいようといまいと、二人の行動は何も変わることはないんだって。
それが悲しいのか、それとも悔しいのか分かんないけど、どうしてか泣きそうだった。
喉の奥をグッと噛みしめるように口を閉じて空を見上げると、そこには微かに星が瞬いていて…
胸の奥の閉まっていた気持ちが溢れだしてきそうだった。
「ちきしょう…」
一歩進む度に胸が痛くて。
溢れそうになる涙を必死で堪える。
あんなゆきみも哲也も初めてで。
だから気づいたんだ。
「好きだよ、ゆきみ…。すげぇすき…」
―――誰にも言えない独り言。