恋に気づいた日3
「え、さ、さっきの子?」
全く顔も何も見ていなかった俺は哲也の言うさっきの子が、あのテーブルの中のどの子なのかすら分かっていなくて。
「そう。ほらオカッパの子、ゆきみと同じ髪型の…。あの子お前と仲良くなりたいって言ってる。この後どっか行ってくれば?」
…どういう意味?
哲也、というより俺の視線はゆきみを見ていて。
頬杖をついてニコニコしているゆきみは、俺の春を期待しているんだって。
「なんだ、直ちゃん狙いだったのか!それならそうと言ってよ〜」
ほら、そんな言葉。
俺の気も知らないで、そんな残酷な言葉。
「あ、俺だと思ったの?だからそんな可愛い顔して怒ってたの?」
「だって哲也の彼女は私だもの。そう簡単に他の女の気持ち受け止められちゃ困る…」
「あーそういうこと外で言うんだ!ここでキスしちゃおっかな〜」
「だめだめ!こんな人がいっぱいいるところなんて絶対だめ!」
「でも今した〜い。直人がOK出したらしてもいい?」
…―――キス、したの?
え、もうしてんの?
脳内で二人が近付く絵が容易に想像できて。
「絶対ダメに決まってんだろ、こんなとこで!!それから俺、今そういうの興味ねぇからっ!か、帰るっ!!!」
そんな大声を出したつもりはなかったけど、どうやら店中の視線を浴びてる俺は目立っているようで、でも今更引き返せない。
「直人、待てよ!お前何怒ってんだよっ!?」
哲也が立ちあがって俺の腕を掴んだ。
ゆきみを一人占めしているその手に掴まれて、激しく嫌悪感が身体をまとう。
俺はその腕を思いっきり振り払った。
「離せ、ばかやろう!」
お前ら二人なんて好きじゃねぇっ!!!
思った言葉は声に出せなくて、グっと飲み込んだ。
自分で感情のコントロールすらできなくて。
「直人!待ってよっ!」
ゆきみが俺を掴む。
悲しそうな顔で俺を見ているゆきみを、そんな顔をさせた自分が嫌で。
でもどうにもできそうもなくて。
「アイス、あげる。ごめんなゆきみ」
ポンって頭を撫でると、ゆきみの手がゆっくりと離れていく。
それを寂しいと思いながらも俺は哲也を見ることなく、店を出た。
もう何が何だか分かんなくて…
ただ一つ分かっているのは、哲也の隣で笑うゆきみを見ていたくないってことだけ。