恋に気づいた日1
認めたくないものを認めざるを得ない状況―――それが、恋なのかもしれない。
「3人で3時間…あーあー俺喉痛ててて」
哲也が喉を押さえて顔を歪めている。
まぁ、あんだけ歌えば十分喉も痛くなるって。
「はい、あーん」
ゆきみが鞄から出した龍角散のど飴を哲也の口にコロっと入れた。
そのまま視線を俺に向けて「直ちゃんも、あーん!」…哲也の口に入れたその手で俺に飴を差し出すゆきみがほんの少し憎い。
いや、そんなことないけど。
「俺は平気だよ」
「いいからいいから!あーん!」
「………」
仕方なく口を開けるとゆきみの指ごと飴が入ってきた。
俺の唇に触れたその指でもう一つ飴を取ると、パクっと自分の口にいれて、それからペロっと指を舐めるとニコっと俺に微笑んだ。
…間接キスだけど、それ。
今更ながら鈴木の言ってた”女はエロイ!”の意味を痛感する。
「ゆきみ、アイス食ってく?」
そんな俺とゆきみを邪魔するかのよう、哲也がゆきみの手をキュっと握って自分の方に引き寄せた。
いや、邪魔してんのは俺の方か…。
「食べる!哲也の奢り?」
「勿論!直人も行こうぜ」
「あー…」
「やだ、直ちゃんも直ちゃんも!私色んな味食べたいもんっ!」
哲也と繋がってない方の指で俺の手を掴んでブンブン振るゆきみをほんの少し残酷だと思うこの気持ちはやっぱり恋、なんだろうか。
色んな時間を一緒に過ごすもんだと思ってきたけど、ここにきてそれが少しだけ苦しい。
だけど一緒にいたいって気持ちには勝てないような気もして…
「んじゃ行く」
俺の言葉に嬉しそうに歯を見せて笑うゆきみに、また胸の奥がギュっと締めつけられるような気分だった。
チャリでゆきみを乗せた哲也の後ろを走る俺。
二人が付き合う前までは当たり前にゆきみを後ろに乗せていた俺の場所が寂しそうで。
この先ここにゆきみ以外の女を乗せないといけないのかとか、そんなこと考えるのも面倒だった。