彼女の過去
「てっちゃんは小さい時からずっと憧れで。直ちゃんは子供みたいな性格だけど、てっちゃんは大人って感じで。あたしもゆきみさんも困った時はいつもてっちゃんに助けてもらってたの。だからね…てっちゃんとは何もない。ゆきみさんが直ちゃんのこと本気で好きになった時も、てっちゃんは大人だった。でもあたしはそんな時ぐらい子供でもいいんじゃないかって…。だからてっちゃん泣きたいの我慢してるの分かって、それであたし…あたしが泣いたの。そしたらてっちゃんやっぱりあたしのこと慰めてくれて…。だからてっちゃんとは何もないよ…」
なんとなく、あの兄貴達のことは分かったけど、美月が言おうとしているのも分かったような気がするけど…
「うん。分かった。俺は美月を信じる。二人でそう決めたなら、俺は美月のことちゃんと信じるよ。過去は俺だって消せないし…――けどな…」
美月を後ろからギュっと抱きしめてその肩に顎を軽く乗せた。
シャンプーの甘い香りと、カフェのコ珈琲の香りが入り交ざったいい匂いに顔を埋める。
あ、やべ、これじゃ変態じゃん。
いやもう、何でもいい匂いだから理解不能なこともしたくなる。
「けど?」
「うん、けど。ずっと一緒にいたいと思ってる。だから隠し事はなし。嘘もなし。美月も俺を信じてくれる?」
俺と同じように美月にも、俺の過去を気にしてくれてたら嬉しいなんて、そう思った。
面倒だな…って思ってきたことすべて、美月には喜びに変わってしまうなんて…。
「臣くんのこと、信じる…」
「ほんと?」
「うん。あたしも…――ずっと一緒にいたい…」
…目逸らすわけ!?
すっげぇ可愛いこと言ってくれちゃってんのに、やっぱ目逸らすとか、たく。
いいよ、それでも。
そんな美月が、たまらなく愛しいんだ俺。
口角をあげて笑うと、美月も白い歯を見せて笑った。
あーやっぱトンカツより先に、美月がいいんだけど…。