過去を超えて1
「ヒロ…」
懐かしい声に頬が緩んだ。
近寄る俺を躊躇いながらも見つめ返すその顔は、ずっと忘れることのできなかった顔なのに、今久しぶりに会って…ああこんな顔してたっけ?なんて思う自分がいた。
見れば見るほど奈々とは違っていて。
一体何がどう似ていたのかとすら思えるわけで。
「元気?」
「うん。ヒロは?」
「まぁ元気!」
「そっか。よかった」
優しく微笑むその顔に俺も微笑み返した。
子供は?とか、旦那は?とか、どこ住んでんの?とか、何してんの?とか、聞くことはたくさんあるけど、俺にはもう必要ないじゃねぇかって。
「ジュリが幸せならそれでいい。俺も幸せだから」
幸せなんて言葉、軽々しく言ったりしないけど、せめて心底惚れた女には幸せであってほしい。
俺がこの手で幸せにできなかった分、幸せであってほしい。
「ごめんね、ヒロ…」
「なにが?」
「ヒロのこと待ってられなくて…」
「もしかしてずっと気にしてた?」
「…フォトブック」
「あ!そうか、そうだよな、ごめん。大丈夫、俺乗り越えたからジュリのこと。今はもうお引きづってないから」
いつかジュリに会ったらどんな顔すりゃいいんだ?ってずっと思ってきたけど、俺はちゃんと笑えていて。
胸に手を当てると、そこにいるのは確かに奈々だ。
間違いなく、奈々だ。
俺が幸せにしたいのは、奈々しかいねぇ。