登坂広臣1
煌びやかなステージから下りた瞬間、ホッと心を撫で下ろす。
今日も無事に歌いきった安心感に大きく息を吐いた。
ステージを終えたからといって今日が終わるわけじゃない。
これからメンバースタッフ集まって反省会をしてまた明日以降のステージの調整をする。
他のアーティストが同じようなことをやっているのかなんて知らねぇけど、俺の戦場はここで、この舟から一生降りるつもりもない。
これが俺の、俺達の生き方なんだ。
「臣喉大丈夫?」
心配そうに俺に声をかけたのは、相方の隆二。
俺の人生、この男がいないと絶対に成り立たない大切な存在。
やっぱバレてるよね?
ほんの少し声が出しずらくて。
心配かけるつもりはなかったけど、さすが隆二は気づいていつも声をかけてくれる。
ニコッと微笑むとまるで俺を恋人のような目で熱く見つめる隆二。
「へーき!明日には完璧にしあげるから!」
ポンッと隆二の肩を叩くと安心したように笑った。
「一緒に針行く?」
「あ〜うん、行こうかな…」
苦笑いで隆二を見るとちょっと吃驚したような顔。
針中毒な隆二に比べると俺はそんなに針を打つことはなくて。
それが家族であろうと恋人であろうとメンバーであろうとマネージャーであろうと、かっこ悪い姿は誰にも見せたくなかった。
どんな人の前でも登坂広臣はかっこいい!って思わせていたいんだ。
こんな性格に生まれたことを後悔したことは1度もないけど、多少は疲れる。
人に弱みを見せることがかっこ悪いとは限らない。
だけど、ここの住民はわりとみんなそれをうまくカバーしているから。
勿論隆二はどんな些細な不安でも俺に相談してくる。
それをかっこ悪いと思ったことも一度もない。
だから俺が悩みを相談したところで誰もそうは思わないだろう。
だけどできねぇ。
どうしても、できないんだ。