理想のカップル2
「小さくて可愛い人…」
ボソっと直人さんが呟く。
そんな落ち込まなくてもラブラブなんでしょう?
そう言おうとしたら、ELLYが直人さんを見て俺が言おうとしたことを言ったわけで。
「いやでもめっちゃラブラブじゃないっすか、直人さんとゆきみさん!いつ見ても…?聞いても?ラブラブだな〜って」
「うん、俺もそう思います」
ELLYに続くように隆二がそう言う。
誰が見てもそう思う。
「まぁ…」
だけど、直人さんから出たのはそんな曖昧なちょっと煮え切らないような返しで。
そんな直人さんを見てちょっとだけ眉毛を下げた行沢さん。
「あれがあったからあたし、直人さんのことちゃんと認めたんですよ」
「え?そうなの?」
「はい。だってゆきみはあたしの親友ですよ。いくら相手が芸能人だろうと、アイドルだろうと、親友を悲しませる人なんて絶対に認めないです。あたしにとってゆきみはそれぐらい大事な親友なんで、これからも逐一チェックいれますから!」
「マジか!まぁでももう泣かせないよ俺。でも奈々ちゃんもゆきみに溜め込むな!って言っといてよ〜」
「はは、了解です!」
初めて聞く直人さん達の危機。
いつそんなことが起きてた?
当たり前にプライベートを仕事に持ち込まない直人さんだから、全く分からなかった。
少しぐらい俺達に相談してくれても?いいのに…なんてちょっとだけ寂しく思うけど、俺達に言うぐらいなら他に相談してるんだろうな〜とも思うわけで。
「直人さん、何があったんです?」
「ちょっと広臣、傷口に塩塗りたいわけ?」
ギロって直人さんの視線がくるけど。
「いやだって気になりますよ、俺じゃなくても…」
隆二を見ると、ほんの少し困ったような顔で。
俺の中では直人さんとゆきみさんは結構な理想のカップルで。
最初から俺達に対して一線を引いていたゆきみさん。
拓のバイト先の先輩だったゆきみさんはいつでも俺達のことを思ってくれるそんな人で。
だから直人さんも惹かれたんだって。
岩ちゃんに揺れない真っ直ぐさも、結構なもんだなってちょっと感心したぐらい。
「教えてくださいって、直人さん」
「え〜やだぁ!」
「あはは、あたしが教えましょうか?登坂さん」
駄々っ子みたいにバタバタする直人さんのメイクをしながら行沢さんが俺を見た。
「え、教えてくれんの?」
「ちょっと奈々ちゃん!俺達の許可なしで」
「あたしゆきみの親友だから許されるでしょ!」
「それ言われちゃ俺立場ないっしょ!」
直人さんの言葉に一同爆笑。
ほんとこの場を盛り上げる為に弄られ役に徹している直人さんを尊敬する。
行沢さんの横にある椅子を引いて反対向きに座る俺を見てその小さくて可愛らしい口を開こうとした時だった、スタッフに呼ばれた直人さん。
「本当はメンバーの人になら話してもいいってゆきみと直人さんから言われてるんです。むしろ話してあげて…って」
むしろってぐらいだから、きっと俺達のことも考えてるんだって思った。
だから行沢さんの話してくれたことは俺が全く想像していなかったことだった。
いつだって態度で好きだって気持ちをアピールしてきた俺は、やっぱり間違っていたんだろうか…。
思っていることを言葉にできないと、ラブラブに見えるカップルでも危機はそこまできているんだって。
…―――俺がもっと早くそれに気づいていたら、ジュリと別れることもなかったんだろうか。
…―――逢いたくてたまんない、ジュリに。