涙の懺悔2



それから直人さんがゆきみさんに電話をして、俺達がそこに行くことを告げた。

あまり大人数で行ってもってことで、直人さんと隆二と俺の三人が行くことになった。

タクシーはいつものおっちゃん。

ほんとこの人どこにでも現れるなって、ちょっと笑えた。

こーいう大事な時はもしかしたら直人さんが呼んでるのかもしれないけど。



「臣ごめんね?ずっと騙してて…」



隆二はそのことがずっと心に残ってたみたいで、今日何度目かの謝罪。

ほんと優しいよねお前。



「怒ってねぇよ。直人さんの彼女のさしがねなら怒れねぇし…」



助手席の直人さんに聞こえないように言ったつもりだったけど、くるりと振り返って「ゆきみの悪口?ぶっ飛ばすよ?」笑ってない瞳を俺に向ける。

……怖ええよ。

現場で怒られる方がよっぽどましだと思った。



「違います。隆二の優しさに感動してただけっす。最悪なイメージはちょっと凹みましたけど、仕方ないっすねこればっかりは…」



窓の外、降り出した雨は強くガラスを叩きつける。

これからどうなるのか全く想像つかなくて。

奈々の気持ちが俺に向いてるって事実だけを胸に俺は奈々を手に入れたい。



「ついた。おっちゃんいつもありがとう!」

「おうNAOTO、帰りはまた呼べよ?」

「うん。また連絡する!んじゃ行ってくる!」



やっぱり連絡してたんだ、直人さん。

振り返って「行くぞ」そう言う直人さんに着いて俺と隆二はタクシーを降りた。



お店じゃさすがに危険だからって場所はゆきみさん家だった。

奈々と彼氏は同棲しているため、さすがにそこに乗り込むわけにはいかない。

俺は一度腹ん中の息を全部吐き出すと大きく新らしい空気を吸い込んだ。

まるで戦場に向かう戦士のような気持ちで。




ピンポーン。

呼び鈴を鳴らすとすぐにゆきみさんが出てきた。

玄関には奈々の靴と、男物のスニーカーがあって、それを見た瞬間この現状が強烈に俺の中に入り込んだ。

一旦玄関の外に出てきたゆきみさんは真っ直ぐに俺を見る。



「中村友樹。私達の高校の同級生。その頃不良ブームで、トップにたってる友樹と奈々は地元じゃ有名なカップルだったの。ずっと仲良くやってきたから結婚までいくとも思ってた。それぐらい友樹は奈々にとって大事な人だから。今は実家の美容院継いで、独立して自分のお店持ってる。根はすごく優しい人よ。簡単にはいかないとも思うけど…臣くん、しっかりね?」



ゆきみさんの言葉に重みを感じた。

この人は今、奈々を俺に託したんじゃねぇか?って。



「私は、奈々の幸せを誰より願ってるの」



うん、分かってる。

直人さんの家のベランダで話した時に感じた。

この2人は本物だって。

その友情ごと守りたい。

直人さんみたいに。



「ゆきみさん俺、奈々のこと愛してます」



俺の決意に涙を浮かべて微笑んだゆきみさんの肩に直人さんが優しく触れた。

隆二が傍にいてくれることを恥ずかしいと思わない俺は、隆二の好意を無駄にはしないから。

ゆきみさんを先頭に中に入っていく。



「奈々…」



ゆきみさんが声をかけると、リビングのソファーに向かい合わせに座っていた奈々と彼氏。

背中を向けている彼氏の顔はまだ見えない。

俺を見て奈々が瞳を揺らす。

もう大丈夫だから安心しろって思いを込めて奈々を見つめると、通じたのか少しだけ口端を緩めた。



「友樹。私の恋人の片岡さん。それからメンバーの登坂くんと今市くん…」



ゆきみさんの紹介でようやく友樹さんがこっちを振り返った。

サラサラの髪に色黒の肌。

切れ長の瞳に、優しそうな口元。

だけど強い目で俺達を真っ直ぐに見る。



「中村です。どうも」



軽く頭を下げる友樹さん。

この人がずっと奈々を独り占めしてきた人。



「登坂広臣です。初めまして」



深々と頭を下げた俺に「やっぱりお前なんだ…」やり切れない友樹さんの声が届いた。

至極胸が痛い。




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