100%の大好き2
初めて臣を意識したのはそう…――――
「えっ!?キスっ!?どーいうこと、直人さんっ!?」
「え、俺?いやいや俺そこ知らねぇし…」
親友ゆきみの恋人、片岡邸にあたしは仕事帰りによく立ち寄るようになった。
ちょうど友樹も美容師の大会前で残業続きの為、家に帰っても一人だしって、ご飯一緒に食べようってゆきみの好意に甘えてしょっちゅう来ている。
学生時代に戻ったようにあたし達は色んな話をして過ごしている。
そんな中、あたしの心に変化が起きたわけで。
自分でもどうしたの?って笑っちゃいそうなのに、泣きそうでもあって…
「ゆきみ達が買出し行ってる間、ベランダで酔い醒ましで風に当たってて…」
「やっぱり直人さんの監督不行き届きじゃない?」
「うわ、ごめん奈々ちゃん!でもキスって…どうなのよ、アイツ…」
困ったように眉毛を下げる直人さんは当たり前にあたしにも優しい。
親友といえど、こんなに毎日立ち寄っていても嫌な顔一つしないであたしを笑顔で迎え入れてくれる。
ゆきみと二人っきりで居たいだろうけど、それでもあたしの訪問を喜んでくれて、一緒になって話を聞いてくれる。
すごく忙しい人なのに。
だからそのメンバーである臣のこと、隠しちゃダメだって思うんだ。
「ごめんなさい。あたしも自分でも分からなくて…。流れっていうか空気っていうか、キスしようとしたわけじゃなかったんだけど、臣が俺と浮気する?って言って。勿論冗談だって分かったし、あたしだって実際はそんな気ない。でも何でか何も言えなくて…。ただ臣の手を強く握りしめたの…。だからだと思う、臣がそういう空気を察したんだって…。もしかしたら浮気してもいいって心のどこかであたしがそう思ったんじゃないかって、それが臣に伝わったんじゃないかって…。もう自分の気持ちが分からなくて、こんな気持ちで友樹になんて会えない…」
言葉を吐き出しながら、「たられば」を脳内で繰り返す。
あたしどうしちゃったの…?
臣に本気になりかけてるの?
ダメだよ無理だよ。
あたしには芸能人の彼女なんてハードル高すぎる。
ゆきみみたいに100%直人さんのこと信じてるみたいなの、あたしにはできない。
「直人さん、臣くんは…どうなんだろ?」
ゆきみの言葉に直人さんは視線を外に向けた。
考えているような表情で、すぐに小さく溜息をついた。
「たぶん広臣も奈々ちゃんと同じような感じかも…。無駄に隆二を意識している気がする」
「え、もしかして逆効果だったかな…」
あたしが臣にいきそうなことよりも、臣があたしにきそうだ!ってゆきみが言うからか、隆二を引きあいに出すって最初の計画だった。
それを前もって隆二に伝えたことで、難なくOKしてくれて、あたしに気のある素振りを見せている隆二。
「分かんない…」
小さく答えたあたしに、「奈々」ゆきみが優しく名前を呼んだ。
「好きになる気がするよ、奈々は臣くんを…」
「そんなこと言わないでゆきみ…」
親友に言われたら否定できなくなる。
「奈々嘘は嫌いでしょ?昔っから嘘だけは通用しなかったじゃない、奈々」
だって一度でも嘘を許したら、その後全部が嘘に思えてしまう。
だから嘘は嫌い。
人に対して誠実でいたい、あたしも。
でも今はまだ認められない。
これは、嘘じゃない。
「ゆきみ違う、好きになんかならない」
「大丈夫、私も直人さんもみんな奈々の味方だよ」
「ゆきみごめん…分からない。怖いよ、このまま本気で臣のこと好きになったらって思うと…」
「それでも臣くんと奈々の気持ちが一緒なら私は応援するから」
「でも友樹…」
あたしには友樹って恋人がいるのに。
「その時は私も一緒にちゃんと考えるから」
苦しいのに、嬉しくて。
友樹すら抑えてあたしの気持ちをかき乱す臣に、どう対応すればいいのか分からなかった。