裏腹な想い2



「な…に?」



苦笑いで振り返る俺の隣にチョコンって座る由香。



「だって臣クン遅いんだもん!由香つまんないよ、臣クンがいないと」

「あー今日あんま体調よくなくて、ごめんね」



苦笑いでさり気なく由香から離れる。

むやみに触れないでくんねぇかな…香水キッツ。

離れるどころかベッタリ俺に寄りそう由香に激しく嫌悪感。

俺って結構女の扱い悪くないっていうか…誰にでもフレンドリーに触れられるタイプじゃなかったっけ?

物凄い生理的に受け付けない人以外は触られることぐらいでこんな気持ちにならないはずなんだけど…

心はそわそわして、西麻布の鳥鍋の店を思い浮かべる。

そこに奈々がいるんだって思うとどうにも気持ちがそこに向っているようで。



「やっぱダメだ。ちょっと中入ろ!」



仕方無く由香の腕を引いてクラブの中に戻った。

手を繋いでいるように見えたのか、岩ちゃんが不自然な顔で俺を見ていて。



「あ、ごめん」



スッとその手を放すと、由香の方から腕に絡まってきた。

マジやめてくれ。

無駄に胸押しつけるとか、ガキかよ。

隆二も岩ちゃんも至って普通にパートナーの子と仲良さげに話していて。



「臣クン臣クン、これ美味しいよ」



シャンパングラスを俺の口元に添えている由香に、若干呆れた顔でそれを飲まさせてやった。



「ねぇ今度は二人で逢いたいな由香。臣クン今日うち来ない?」



耳食われてんじゃねぇの?ってくらい傍で吐息交じりにわざとらしい声を出す由香からスッと離れた。

それをほんのり怪訝に思ったのか俺をジッと下から見つめあげる上目使いに力が入ってるようにも思えた。



「あのさ、悪いけど俺遊ぶつもりはないから。今は仕事のことしか考えてないよ。だから…」

「遊びなんて言ってない。本気で好きだよ臣クン…」



そう言って俺だけに見える位置でそっと目を閉じる由香。

マジで勘弁。

俺は荷物を持つと立ち上がる。



「岩ちゃん、隆二、悪りぃ。急用思いだした。帰るわ!」

「ちょ、臣さんっ!?」



後ろから俺を呼ぶ声にも耳をかさずに俺はクラブを飛び出した。

空気悪いな、ここ。

辺りを見回すけど、あのタクシーのおじさんはもういなくて。

会社帰りのサラリーマンや学生の姿ばかりが目につく。



「西麻布の鳥鍋ってどこだよっ?」



とりあえず直人さんにLINEしてみるけど、しばらく待っても既読にはならなくて。

仕方なくタクシーを捕まえて家に帰った。


まさかあんなことになるなんて、この時の俺はまだ何も知らずに。

女の嫉妬ほど面倒くせぇもんはないんだと、思い知らされたんだ。





- 40 -

prev / next


TOP