裏腹な想い1
「カンパ―――イ!!」
ガシャン!ガシャン!グラスがぶつかる音と大音量。
クラブのVIPルームで飲み会。
日本のクラブに顔を出すのは極めて久しぶりだった。
三対三のまるで合コンみたいなこの空間が今は苦痛だなんて。
サマンサガールの子らは可愛い。
顔だけ見てりゃ普通に可愛い。
俺のパートナーじゃなくてもみんな今時でまぁ可愛い。
可愛いから好きになるってことはない。
「隆二さん病みあがりだからお手柔らかにお願いしますね」
幹事をかってでてくれた岩ちゃんがこの場を取り仕切る。
俺の前には当然の如く由香ちゃん。
CMで俺がプロポーズした相手。
そもそもみんな三人とも俺達のファンじゃないよね?
「臣クンって呼んでもいい?」
しょっぱなタメ語ねぇ。
まぁいいけど。
奈々はそういう所もちゃんとしてたなぁ。
まぁ仕事の場だから当然っちゃ当然だけど、この若い子独特の馴れ馴れしさすら今の俺にはうざったいと思ってしまう。
目の前で繰り広げられる絵を客観的に見ている俺はこの場の盛り上がりに何一つついていけていない。
うわ、やっぱダメだこれ…
「あーちょっとごめんね」
スマホを持ってVIPルームから出るとサングラスをつけてクラブから出て行った。
「だりぃ…帰りてぇ…」
路地裏の階段に座って小さく溜息をつく俺の前、一台のタクシーが止まった。
「よう、登坂!またしけた顔してんなっ!」
「え?」
「俺だよ、俺!NAOTOのマイメンだよ!」
くったくなく笑うその笑顔に見覚えがあった。
たった一度、俺を乗せてくれた運転手で。
「ああ、おじさんか」
「もっと喜べよな!」
「…すいません」
「なんだよ、また悩みか?」
煙草片手に俺にそんな問いかけ。
この人口堅いって言ってたっけ、直人さん。
ゆきみさんのことも知ってんもんなぁそういや。
「好きな女じゃない子と飲んでるから気持ちがあがんなくて」
「NAOTOとゆきみちゃんと奈々ちゃんならさっき西麻布の行き付けまで乗せてったぞ?登坂も行くか?」
「え!!それマジすか!?」
「ああ、この俺が嘘言うわけない」
「行き付けってどこっすか?」
「鳥鍋の店だよ」
「鳥鍋?どこだろ…」
一気に気持ちが奈々に向いた。
今日飯食うならこっち断ってそっちに行きたかったんだけど俺。
本気でそっちに行こうか悩んでいた俺に「臣クゥ〜ン」聞こえた猫撫で声に肩がゾクっとした。