プライド3



新曲のリーフレット撮影で今日は24時間…いやそれ以上かかる長丁場になりそうだった。

隆二の風邪もすっかり治ったせいで、明日の夜はサマンサガール達との飲み会。

気に入らないわけじゃねぇけど、乗り気は一切なかった。



「衣装は全部直人さんが選んだの?」

「そう俺!気になる?」

「うううん!ゆきみが直人さんのセンスは凄すぎてついていけないって言ってた!」

「ちょっと!なによそれ!俺そんなの一度も聞いてねぇし!地味に凹むわ」

「あはは、お洒落だって言ってるんだよ、直人さんのこと」

「まぁそういうことにしとくわ」



相変わらず仲良しな直人さんと奈々にヤキモキしながらも相手が隆二じゃないことにホッとしていたりもする。

奈々に余所余所しい態度を取られている可哀想な俺を分かってくれているのはきっと岩ちゃんだけで。

そんな岩ちゃんの撮影風景をボーっと見ていた。



「臣大丈夫?」



不意に聞こえた直己さんの声に視線を向けると、俺の横にあった椅子に座ってこっちを見ている。



「え?はい、大丈夫っす…。え、俺変でした?」

「うん。浮き沈みが激しいし、今日は元気ない」



鋭いね、やっぱり。

三代目の母の千里眼はファンの中での噂だけじゃないってマジで思うわ。

苦笑いしつつ俺は小さく溜息をついた。



「すいません、全然大丈夫です!ちょっと気持ちの整理がついてなかっただけなんですけど、直己さんには誤魔化せないですね…」

「プライベートなこと?」

「…まぁ…」

「なるほど。何となくそうかな?って思うものはあるけど、あえて聞かないでおくよ。臣が言いたくなったらいつでも聞くからさ、俺は」

「はい」

「ただ、今日の撮影はこれから発表されるアルバムのリーフレットだから。きっと沢山の人の手に渡るものだから、ファインダー越しでも何でもファンに気づかれないようにしなきゃ。俺達はカメラが入ったらどんなにプライベートでもやっぱり見せちゃダメなシーンもあるから。俺達の前ではどんな臣も受け止めるけど、カメラの前では隠せよな?」



ポンって大きな直己さんの手で渇が入る。

こういう風にきちんと見てくれる人がいるって環境は幸せだと思う。

人間である以上、感情がある。

でも時に、その感情すら抑え込んで笑顔を作らないとダメな時がある。

それが今なんだって。



「はい、すいません」

「臣ならできるよ」



細い目をいっそう細めて微笑む直己さんは、大人の貫録がある。

奈々に出逢って今まで制御できていた感情のコントロールがどんどんきかなくなっているのを感じていた。

若さゆえ…なんて言葉をもう使えない歳になってきているというのに。

でもだからこそ、負けらんねぇ。

奈々が俺にどんな態度を取ろうと、やりきってみせようじゃん。

登坂広臣のプライドにかけて―――





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