できた奴の本音3
「なるほどねぇ。なんだかんだで岩ちゃんだってすげぇメンバー思いじゃん!」
「当たり前っすよ。一生ここで生きてくって決めたんっすから。結局俺達、直人さん直己さんがいないと前に進めないっていうか。自立は自立してきてますけど、いざって時はリーダー2人に頼っちゃうし。俺達以上に幸せであってほしいっすマジで」
強い口調だったけど、その顔はほんの少しだけ泣きそうで。
これが岩ちゃんの本音だと思うと、俺に話してくれたことを嬉しく思う。
少しは俺のことも頼ってくれたというか、認めてくれたというか、そう思ってもいいよな。
一番年下だからって、そこに甘えないのが岩ちゃんの男らしいところで。
可愛がられているけど、本当は俺達頼りにしてるよ。
岩ちゃんがいなきゃ三代目は成り立たない。
いや、岩ちゃんだけじゃなくて、今の7人じゃないと今できてる仕事は成り立たないんだって。
やっぱり俺、三代目で幸せなんだって。
これ以上の幸せなんて望んじゃだめ?
「俺は臣さんにも幸せになってほしいです。勿論他のみんなにも。それが俺の幸せですから」
堂々と照れもなくそう言い張れる岩ちゃんがある意味すげぇ。
男として見習いたい。
「まぁけど本当の本当は、やっぱ悔しいっすよ。もしもゆきみちゃんが俺んとこきたら、全力で受け止めるって思ってました。それぐらいマジでゆきみちゃんとの幸せも考えてましたよ俺、何気に。それ以上に直人さんを好きなゆきみちゃんの気持ちを早く直人さんに受け止めてほしいって思ってましたけどね」
焼き鳥をパクつく岩ちゃん。
今日はいつも以上に語るなぁ。
「それで、臣さんは奈々さんとどうなりたいんっすか?」
そう言われて分かった。
俺に語らせる為に自分が先に話したってわけね。
全くできた奴だよ本当にお前は。
「どうなりたいんだか分かんねぇ」
「マジなんすか?奈々さんのこと」
マジって胸を張って言えるほど奈々を知っていない。
岩ちゃんから目を逸らしたまま俺は砂肝を口に含む。
「うーん。マジって言ってもいいのか正直分かんねぇ。けど奈々のことは誰よりも俺が分かっていたいってのが本音」
素直に自分の気持ちを言えたのは岩ちゃんが本音で接してくれてるから。
自分で自分の気持ちが分かんねぇなんてかっこ悪いこと本当は言いたくもねぇのに。
「そう言ってる時点で臣さんの場合もう手遅れっぽい気がしますけどね」
「俺すげぇかっこ悪い男に見えてそう岩ちゃんから…」
自嘲的な笑いしか出せないダサい俺をキョトンとした顔で見つめる岩ちゃんは、「そんなもんじゃないっすか、恋愛なんて。かっこ悪くてなんぼじゃないっすか」さも当たり前っていうようにそう言った。
「俺は今の臣さんのが人間臭くて好きっすよ」
何だか俺なんかより岩ちゃんのが大人に思えた。
「岩ちゃんは、忘れらんない女とか、いねぇの?」
何気なく聞いたんだ。
特に何も考えずに。
俺の言葉に岩ちゃんはほんの少し目を伏せて儚げに微笑んだんだ。
「いませんよ俺にはそんな女…」
岩ちゃんは三杯目のビールを飲み干した。
やっぱ今日はペースが早いな。