できた奴の本音2
―――だけど。
その後の生放送はボロボロだった。
辛うじて隆二がうまくフォローしてくれたものの、最悪で。
これじゃプロ失格だ。
案の定、終わった後のミーティングでは、俺を心配しながらもしっかりと怒られた。
自業自得だって分かってる。
分かってるしこんなの俺じゃないって。
けどどうにも奈々のことになると、自分の感情がうまくコントロールできなかった。
動揺したのか、俺。
俺達の出番中に奈々の男がここに奈々を迎えに来たと思うと気が気じゃなくて。
既にここに姿のない奈々が気になって仕方ないんだ。
「あ、ねぇ!行沢さん大丈夫だった?」
通りがかった他のスタッフの腕を掴んで小声でそう聞くと「ああ、彼氏さん迎えに来てたんで大丈夫じゃないですかね!」…聞きたくない言葉が俺の耳に入りやがった。
「どんな奴だった?彼氏」
聞かなきゃいいのに、聞かずにはいられなくて。
かっこいい?
優しそう?
真面目?
大人?
それとも…―――「んーどんなって、単純に心配してたっていうか。普通の人でしたよ!あでも何かお洒落でした!美容関係の仕事でもしてんのかなー?って思えるような」…そーかよ。
「そっか。じゃあ安心だな!ありがと、お疲れ!」
胸くそ悪りぃ。
何なんだよ、たく。
何で聞いちゃったわけ?
あー腹立つ。
やっぱ、間違いなく男いるんじゃん。
はぁー。
さっきから溜息が止まらない俺を見て岩ちゃんが「臣さん飲みに行きます?」声をかけてきた。
「乾杯!」
カシャンとグラスを鳴らしてとりあえずビールを一気に飲み干した。
喉の奥を冷たいビールが通っていって胃がキュッと縮まった感覚で。
ダンっとグラスをテーブルに置くとまた小さな溜息が出た。
「あはは、臣さんのそんな顔珍しい、ってか初めてかも!」
目を細めて笑う岩ちゃん。
至って悪気はないんだろうけど笑う気になれなくて。
「俺どんな顔してる?」
「んーちょっと必死です、臣さん」
最悪。
岩ちゃんに言われるなんて。
いや、誰に言われても俺凹むんだろうな。
もういいやってテーブルに突っ伏した。
「なんであの子なんすか?確かに奈々さんそこらの芸能人よりも可愛くて綺麗だとは思いますけど。それでも臣さんならモデルとかいっぱいいるでしょ?」
ご最もな岩ちゃんの言葉に苦笑いがこぼれた。
なんでって。
「じゃあなんで岩ちゃんはゆきみさん?ゆきみさんって最初っから直人さんにしか興味なかったじゃん。それなのになんであんなにこだわってたの?」
「可愛いからゆきみちゃん。落とせると思ったんっすよねぇ、ゆきみちゃん!俺好きなんっすよ、表情がコロコロ変わる子。俺達より年上だから冷静を装ってたみたいだけど、本当は一々全部反応してて、それが見てて面白くて。だけど全然俺に興味持ってくれなくて、最初はムキになってたけど、」
そこまで言うと岩ちゃんは二杯目のビールを飲み干した。
初めて聞く岩ちゃんの本音に、少しばかりテンションがあがってくる。
「直人さんが迷ってるのとか見ててもどかしくて。俺がちょっかい出したら直人さんもマジになるんじゃないかって思ったりして。いつも俺らんことばっか考えてる直人さんだって女作って幸せになる権利あるじゃないっすか。どう見ても好き同士なのに、見てみたくて、女の為にマジになる直人さん」
三杯目のビールを一口飲むとニッと笑う。
それからタコワサをパクついてゴクっと飲み込むとその口を開いて続けたんだ。
「いつも余裕な直人さんの余裕のない姿もちょっと見てみたかったし!」
あはははって大口開けて笑う岩ちゃんのグラスをカチンと鳴らした。