できた奴の本音1
「あれ奈々もしかして具合悪い?」
聞こえた隆二の声に思わず視線をそっちに向けた。
今日は生放送の歌番組の出演で代々木体育館に来ている。
もちろんヘアメイクの奈々も一緒で、俺達は入念にリハーサルを終えていざメイクにとりかかっていた。
「え。そんなことないよ?隆二ってば心配しすぎ」
「でも手熱くない?」
そう言いながら隆二は腕をスッと伸ばして奈々の額に触れた。
ビクッと肩を竦めて後ろに下がろうとする奈々を、反対の腕で引き止めてそのまま首元に触れた。
その手を自分の額に当てて温度を確かめていて。
「直人さん来たら言うね?」
「隆二平気!本当に違うから!」
慌てる奈々のところに行って俺はその細い腕を掴んで自分に引き寄せた。
「その風邪が俺達にうつったら責任とれんの?」
そんなに強い口調で言ったわけじゃないけど、奈々は潤んだ瞳で俺を見上げて小さく呟いた。
「―――そうだよね、ごめん。少し微熱が続いてて…」
「顔色悪りぃな」
椅子に座らせたらちょうどタイミングよく直人さんと直己さんと岩ちゃんが楽屋に入って来た。
どうやらEXILEのリハも終わったらしい。
「直人さん、奈々体調不良で」
俺が言うと目を大きくかっぴろげてズカズカこっちにやってくる。
「大丈夫?ゆきみ呼ぼうか?それとも…」
言葉を濁したけど。
それって彼氏ってことだよね?
俺は黙ったまま直人さんをジーッと見つめる。
この前直人さんに、奈々ってマジで男いるんすか?って聞いたのは、今までの奈々の行動にどうしても男の影が見えなかったから。
「ゆきみに迷惑かけらんない。彼に連絡します」
「ゆきみは迷惑だとは思わないと思うけど、奈々ちゃんがそうしたいならそれで。とりあえず他のスタッフ呼ぶから座って休んでていいよ」
優しく直人さんが奈々の頭をポンポンってして出ていく。
その後ろ姿に少しだけ安心したように奈々が微笑んだ。
奈々の男、迎えに来るのか?
見たいような、見たくないような。
「もしかしてずっと体調悪い?」
隆二が心配そうに奈々の背中をさすっている。
それ俺の役目だからー隆二!
なんて言えないけど。
簡単にスッて直人さんの位置に入った隆二をちょっとズルイって思うこの感情は、嫉妬なんだろうか?
嫉妬ね…俺が。
「あ、でも本当に微熱程度で。あと少し胃腸が弱ってるのか食欲なくて…」
「え、妊娠してるんじゃないよね?」
…はぁー!?
口に含んだペットボトルの水を思わず噴き出した。
「わー臣ちゃん汚いやんっ!」
健ちゃんがタオルで拭いてくれるけど、俺の視線は奈々に向いていて。
騒いだ手前、奈々の視線もしっかりと俺を見ている。
「まさか、まさか、それはない!」
慌てて首を振るけど。
「絶対ないって言いきれんの?」
俺の口から出た低い声に、奈々が真っ直ぐに俺を見る。
「あったとしても、臣には関係ないから…」
はっ!?
どーいうこと!?
え、俺なんかした?
さっぱり意味が分からなくて。
ムカッてして立ち上がった俺を岩ちゃんが止めた。
「臣さん落ち着きましょう!すぐに直人さん戻ってきますから、ね!」
弟に止められるなんて。
ニッコリ笑ってそう言うけど、岩ちゃんの目は笑ってもいなくて、俺を止めてる手もすげー力で掴んでる。
あー俺ヤバイ顔してたんだ?って、少しだけ冷静さを取り戻した。