独占欲3



向かいの席に二人で座ろうとしたら、直人さんがゆきみさんの腕を引いて。


「ゆきみそろそろこっち来てよ」

「え?でも…」


でもって言いながらも嬉しそうなゆきみさん。


「んじゃ俺そっち行きます」


だから俺も奈々の腕を引いてゆきみさんが座っていた席へと移動する。

ゆきみさん怒るかな?って思ったけど、直人さんの隣に座れて嬉しそうな顔してるからちょっと安心した。


「大丈夫?気持ち悪くない?」


俺が奈々の手を握ったままそう聞くと「うん!」元気よく答えて。

そのままテーブルの下ってのをいいことに、俺は奈々の細い指に自分の指を絡めた。


「そのままなの?」


だからか、奈々が俺を見て赤い顔で小さく聞いた。


「そのままだよ」


ニコって笑ってそう答えたら「ばか」…照れた顔をそっと逸らした。

この顔、絶対ぇ隆二には見せたくないんだけど。

隆二にはっつーか、他の男には見せたくねぇな…。

これって独占欲?

そんなん持ってた、俺?


―たまには妬いてくれてもいいのに―


とか、よく言われてたよな…。

あ、そうか…そういう気持ちだったんだ。

俺のこと、そういう風に見てくれてたんだ、歴代の彼女達は。

少しは俺もそうやって思わせてあげられたらもっとうまくいってたのかな…


「ね、臣。あたしあの歌好きなの、あの確かデビュー曲」

「Best Friend's Girl?」

「うん、歌って!?」

「え、今ここで?」

「うん」


そう言ってキュって繋がっている指に力を込める奈々…

何かちょっとやられた感じ。

手繋がせてあげるから歌えって言われたような気分になる。

でも手を離す気もなく。

奈々の為にだったら歌ってもいいか…って。

だから前の二人の方を一切見ることなく、俺は奈々の耳元で小さく囁くようにサビを口ずさんだ。



…歌い終わって奈々を見るとポーっとしていて。


「臣、嬉しい…ありがと…」


照れた顔で、ほんのり泣きそうな顔でそう言って俺にほんの一瞬、少しだけ抱きついたんだ。

いきなり奈々の温もりを浴びてドキっとする。

仕事以外のプライベートで女を抱きしめることを忘れかけていた俺の本能を目覚めさせたような、そんな感覚だったんじゃないかと。

思いっきり奈々を抱きしめ返したくて…

でも目の前には直人さん達。

理性を抑えるのに必死で、俺はグラスの酒をまた一気に飲み干した。


「便所」


そう言って席を立つ。

直人さんに視線を送ると、ちゃんと直人さんも俺を見ていて。


”直人さん俺、限界っす…”


そんな思いを込めて自嘲的に笑ってこの部屋を出た―――



だから気づくはずもなくて。

奈々がこの日を境に、俺に近づかなくなるなんて、思いもしねぇ…。








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