導いてくれる人2
「分かっていてもどーすりゃいいか分かんなかったし、正直ツアー中で忙しかったのもあって、ゆきみとほんの少し距離を取ったことがあって。でもその間もあいつはね、俺に毎日LINEしてきてくれて。別にどーってことない返信いらずのLINEよ。今日は星がよく見えたよ!とか、この紅茶美味しかったよ!とか、そーいうの。毎日それ見るだけで自然と疲れもとれて、どーしよう?って悩むまで俺をその気にさせたのこいつだけか…って。悩んでる時点で迷ってる時点で気持ちは明らかに募っていって…結局二週間ともたなかった。こんなに悩めるくらいゆきみのこと考えてるんだって、その気持ちに素直になっていいんじゃないかって。だから逢いに行った…俺からね!」
ニコッと八重歯を見せて照れもせず笑うんだ。
堂々と胸を張って答えてくれる直人さんには、マジで何の迷いもなくて。
幸せの絶頂にしか見えない。
一アーティストとして、俺達自身が幸せでないのなら、沢山の俺達を想ってくれてる人を幸せになんてできないんじゃないかって。
むしろ、そうあるべきだと…。
直人さんはそれさえもしっかりとできている。
俺もそうでありたい…。
「すごいっすね何か…」
「そうか?」
「奈々のこと…分からないんですけど…本音はたぶん気になってます。最初はジュリと同じシャンプーだって思って…。全然違うんですよ、似てもないし、性格だって顔だって喋り方、仕草…―――でも何かたまに重なっちゃって…正直戸惑ってます…。隆二と仲良くしてるの見てイラつくし、だからちょっと強引にすると照れるし…男いるってのに、何か初めてされたみたいな顔されて…―――この辺が痛くて…苦しい…」
自分の胸元をそっと手で押さえる俺を見て、直人さんはほんの少し困ったように眉毛を下げた。
さっきまでの怒った顔はそこにはなくて。
「広臣それ…かなりヤバイ奴…」
直人さんの声に、「恋だな…」言ったのはタクシーの運転手。
え?
視線をそっちに向けると「いやいや、おっちゃん!俺今真面目な話してたのよ!」今度は直人さんがそう言った。
不思議そうに見る俺に、ニカって運転手が振り返る。
「俺とNAOTOはマイメンだから!ついでにゆきみちゃんもな!」
「は?マジっすか?」
「うん、何かよく乗り合わせるんだよね、おっちゃんと!仲良くなっちゃったの!」
「俺口堅いから安心しろよな〜」
鼻歌でも歌いそうな勢いでそう言う運転手。
苦笑いの俺を見て爆笑している直人さん。
いや、普通に考えて焦るでしょ。
「だからここでこの話したんすか?」
「そう、ここが何気に一番安全かな?って」
う〜ん、そうなのか…。
まぁ直人さんが言うなら大丈夫なんだろうけど。
「もっと聞いてたいけど、着いちまったよNAOTO!登坂、その苦しい気持ちが爆発する前に俺に言えよ!すぐ見つけてやるから!」
信じていいものやら。
とりあえず会釈をして直人さんとタクシーを降りた。
そこは直人さんとゆきみさん行きつけのお忍び飯屋らしく、俺達の後ろをピッタリ着いてきていた奈々とゆきみさんを乗せたタクシーも止まったんだ。
タクシーを降りた奈々と当たり前に目が合う。
俺の好きな、あのちょっと照れた顔。
はぁ…心が乱れる。
色んなもん吹っ飛びそうになるこの気持ちはやっぱり恋なんだろうか…
教えろよ、ジュリ。
自分だけ先に進むなんてずりーよ。