弱い男1
あんなにクソ睨んでいた直人さんだけど、俺と目が合っても無言で目を逸らした。
…――そっちのがよっぽど怖ええよ。
カシャ…カシャ…
新曲のジャケ写撮影。
隣の隆二は笑顔で撮影をこなしていて…
「臣、調子悪い?」
不意に耳元で隆二がそんな言葉。
見ると心配そうに俺を見ている。
俺はニコっと笑って「なんで?全然問題ねぇよ!」そう言ってみせる。
別に体調が悪いわけじゃない。
だけど今、気分がのってないのは確かで。
のってないっていうか…ジュリのインスタで頭の中は混乱してるって言った方が正しいのかも。
結局のところ、ジュリにとって俺はもう既に終わった恋。
思い出に変わっているんだって、見せつけられたんだと。
俺のエッセイを読んで…「あたしはもう臣のこと好きじゃない」ってそう言ってるんだってハッキリ分かった。
ジュリが俺以外の相手を選んだことは勿論知ってるし、俺が一言「結婚しよう」って言えなかったのも事実。
だからジュリが俺以外の奴とどうなろうと俺にそれをとやかく言う筋合いなんてもんはない。
…それが悲しいのか、俺。
あんなに愛し合ったのに…マジでこいつしかいねぇって心から思った相手だったのに、ジュリに対して何も言う言葉がないってことが、嫌なんだろうか。
確かに今の俺は軽々しくSNS上で女とやり取りなんてできる立場じゃない。
それこそ俺達の今後の活動を大きく左右することになり兼ねない。
だから直人さんだってゆきみさんを隠している。
好きだからこそ、隠している。
ジュリがこの場所にいたとしても俺はきっと「初めまして」って挨拶するんであろうと…。
だけどそんなの表向きな俺であって…実際はやっぱりジュリに逢いたいと思っている。
だけど逢えない。
今更どの面下げて逢えばいいんだって…
「臣?」
「…え?」
「何、考えてんの?」
あ、もう休憩?
心配そうだった隆二に「何でもない」って言ってから、そんな時間たってた?
俺何考えて撮影してたんだろ…
奈々が俺のメイクを直しながらそう聞いた。
「何ってなんも…」
「すごく悲しそうな顔してたよ」
「なにそれ、意味分かんねぇ」
冷たく言い放って俺は奈々から目を逸らした。
あきらかにムスっとした顔で。
もうこれ以上俺に話しかけなんなって顔で。
普通のスッタフならそれ以上俺に話しかけてなんてこない。
つーか、こんな風に感情なんて出さないか俺。
だけど、奈々にはそんな俺すら通用しないのか…
「子供みたいなことしないの」
頬を両手で包んで俺をジッと見つめる。
カアーって身体が熱くなるのを感じた。