覚醒2
キョトンとした顔で俺を見下ろす行沢さんだけど、一瞬視線を泳がせてからまた俺を見つめる。
「元カレのこと思い出すのはまだ自分の中でその人を超えてないってことなんじゃないかな。ゆきみは高校の時の彼氏をずっと想っていたけど直人さんに出逢ってそれがようやく消えたと思う。昔はよく比べてたけど、今はもう拓真くんの名前すら出ないから…」
「他の奴と付き合ってて比べてたってこと?」
「うんまぁそういうことも…。大好きだったからゆきみも拓真くんもお互いのこと…」
俺とジュリみたいに?
「何で別れたの?」
「…それはゆきみに聞いて。あたしが言えることじゃないから。参考にならなくてごめんね…」
フワっと俺の髪を撫でる行沢さん。
動く度にシャンプーの香りがして心臓痛てぇ。
「いや」
「あたしが彼女だったら絶対臣を信じるけどなぁ〜」
たぶん軽く言ったんだと思う。
嘘でもいいからそんな風に言ってくれる奴と付き合えばよかった。
「俺見る目ないのかな…」
「臣かっこいいのにね」
「…嬉しくねぇ」
「えー褒めたのに。顔がかっこいいって得だと思うけど…」
「たった一人に愛されることもできねぇのに?」
「臣!何か卑屈になってる〜。臣はもっとポジティブだって思ってたけど…」
…うわ、やべ。
俺としたことが。
行沢さんと話してると何か素になる。
自分を偽ってるわけじゃねぇけど、やっぱり後ろ向きなことは言いたくない。
でも…―――「奈々がそうさせてんだろ…」無性に腹が立ってそう言った。
ギュっとその細い腰に腕を回して抱き寄せて―――。
「…お、臣?」
ほんの少し慌てた声。
「何で隆二とそんな仲良いの?」
「え?りゅ、隆二?」
「何で奈々って呼ばせてんの?」
「え、お、臣?どうしたの?」
「隆二のこと好きなの?」
「そんなんじゃないし、臣も奈々って呼んでよ…」
俺から距離をとろうとその細い腕で押すけど全くビクともしない俺。
少し開いた行沢さんの胸元に顔を埋めてその匂いを思いっきり嗅ぐ。
甘いその香りに目を閉じて顔をグリグリ押しつける。
「臣…」
「イヤ?」
「…ばか」
「ダメ?」
「…ずるいよ臣は…」
困った顔してるであろう行沢さんを見上げた。
真っ赤な顔で俺を見ている。
その頬に手を添えると、すべすべで。
「奈々…」
小さく呼ぶと、ほんの少し睫毛を下げる。
「俺も、学生の頃奈々と出逢っていたかった…。したらこんな想いしなかったのに」
「…うん」
小さく頷いた奈々をそっと離した。
すげぇ顔で直人さんが俺を睨んでるからゴクっと唾を飲み込んだんだ。