守るべき人2
「それより臣さん、インスタ俺に教えてくださいよ。いまいちやり方分かんなくて」
「あ〜いいよ!」
「自分の名前で検索したりするんですか?臣さんって」
「え?インスタ?」
「はい。ファンの子のとか…」
「…見たことないけど、そう言われると見たくなった」
「あはは!」
岩ちゃんに言われてふと自分のスマホでインスタグラムを開けた。
検索マークで#登坂広臣を打ちこんでエンター。
「おお、俺だ!」
「いや、当たり前っすよね…」
パーっと流して見ていったものの、ふとその景色が目に止まった。
ドクンっと心臓が脈打つのを感じて…
その景色の発信者をポチっと押した。
【JURI】そう書いてある名前。
見覚えのある景色と名前…
俺達が過ごしたあの場所がたった一枚そこには載っていた。
忘れもしないあのBerの外壁。
そこにたった一言ジュリからのメッセージがある。
【臣、幸せだったよ、ありがとう】
間違いなく俺宛に送った言葉だった。
俺達を繋ぐ写真はその一枚だけで、他はそう…「そっくりじゃん顔…」ジュリとよく似た女の子の写真。
ジュリの子だってすぐに分かった。
なんで今さら?
なんで俺の名前タグにつけた?
俺に気づいて欲しかった?
俺に…――思い出したゆきみさんの言葉を。
読んだのか、フォトエッセイ。
それで俺に前に進めって?
自分はもう過去だよって、わざわざ見せつける為に?
俺がこの画像に気づかなかったら?
それでも気付くとでも思ってたの?
「んだよこれ…」
唇を強く噛み締めた。
震える指でコメントを押す。
何て書く?
ジュリに伝える言葉なんて数えきれない程あると思っていたけど、実際の俺はただそこを見つめているだけで何も打てなくて。
「広臣、書いちゃダメだから」
ポンって肩に手が触れて、見上げた先には直人さん。
いつものおちゃらけた顔なんてカケラもなくて、真っ直ぐに俺を見つめる真剣な直人さんの表情がそこにある。
「え…」
「お前がコメントしたら広臣をフォローしてる子全員にバレんぞ、その子の存在。大事な思い出だろ…しっかり守らねぇと…」
「あ…」
そうだ。
つい感情的にコメントしようと思ったけど、冷静に考えたらダメだ。
「分かって、ます…」
「ならいいよ。分かってるなら問題ねぇ」
…今さら言う言葉なんて何もないし。
俯く俺の肩にまたそっと手を乗せて「奈々ちゃん、隆二終わったら広臣やってあげて」…直人さんがどこまで俺を分かっているのか、俺にはさっぱり分からねぇ。
「はーい。今行きます」
行沢さんが俺を見てニッコリ微笑むその顔が、昔のジュリと重なったんだ。