思い出にできなくて3
「結婚するのは直人しかいないって思ってるけど、今すぐどうこうは考えてない。せっかくみんな頑張ってるのに結婚発表なんてしたらやっぱりファンは減るだろうし、人気も多少は落ちるでしょ。臣くんや岩ちゃんが熱愛出ちゃう方が減っちゃうかもだけど!」
そう言った後ゆきみさんは一度部屋の中へと視線をずらす。
それから戻ってきて真っ直ぐに俺を見た。
「だから奈々も…」
え?
行沢さん?
なんでここで行沢さんよ?
「大丈夫だって、俺が見てるから…」
「そうだね」
何となく、煮え切らない返しのような気がしたけど、あえて突っ込むこともせず俺は話を流した。
「結婚したかったんだね、臣くん…」
「え?」
「大失恋の子と…」
何のこと?そう思ったのは一瞬で、ああエッセイね…。
あれを出したことで全国に俺の大失恋がバレた。
へたしたらジュリの手にも届いているのかもしれねぇ。
「あー…まぁ…」
「まだ好きなんだね…」
「え?」
「今でも好きなんだよね?そうとれたよ、あの書き方…」
「マジで?」
ビビった。
確かに今でも笑えない。
ジュリを想ってセンチになる夜なんて数えきれない程ある。
俺それ出してた?
「あいつにもそう思われてるかな…」
「読んだんなら、思うんじゃないかな…」
「すごいねゆきみさん…」
「わざと?そう思ってるんだよって…?まだ好きだよ、気づいてって?」
「わかんねぇ」
正直な所、ジュリを思い出には出来ていないのは確かだった。
だからって、よりを戻したいわけじゃないと思う。
「前に進む気はないの?」
「進めたら進んでるんじゃねぇの?」
ちょっとだけぶっきらぼうに。
あくまでこの人は直人さんの彼女だから。
「自分で止めてるんだよ、臣くんが…。奇麗なままで…」
「違うって!そうじゃない…マジでそんなんじゃないから…」
吐き出す息が白くて身体が冷えてきた。
「ごめん、知った口聞いて。全部忘れて。もう何も言わないから。私戻るね。喉壊さないように、風邪ひかないように…」
言いながらクルリと向きを変えるゆきみさんの腕をガッと掴んだ。
「え?」って吃驚した顔で振り返るゆきみさんに小さく首を振る。
直人さんが唯一弱みを見せられる相手は、俺達にとってもでかい存在で。
「前に進むから俺…」
「…うん」
「それだけ」
パッと腕を離す。
ゆきみさんはそのまままたクルリと俺から身体ごと逸らして戻って行く。
誰かに助けてと言えば助けてくれるだろうか?
隆二…健ちゃん…直己さん…直人さん。
言えるわけねぇよ。
全部汚いもん隠してここまできた俺に、今さらこれが俺のどす黒い心の中だ!なんて見せるなんてできねぇ。
どんなに苦しくても、そんな生き方しかできない。
真っ暗な空を見上げて目を閉じたら、浮かぶのはいつでもジュリの笑顔…。