調子狂う3
行沢さんの視線と絡んで思わず二人同時に吹き出す。
だってこの直人さんがモーニングコールって…。
「…ラブラブじゃないっすか、直人さん」
「当たり前だろ」
「…なんか危機だったのが信じられないっすよ」
別に対したつもりで言ったわけじゃなくて。
至って普通に、さっき行沢さんに二人のことを聞いたからそう言ったんだ。
急にシーンとなったこの部屋。
「たかだかキスシーンがって思う?」
そんな中静かに直人さんが言う。
ワイン片手に一口飲んで俺と行沢さんを交互に見た。
正直女側の気持ちは分からない。
ジュリと別れてからは芸能界で付き合った人もいないし、そういう風に思う彼女なんて特にいなかった。
「芝居…じゃないっすか」
「うん、たかだか芝居。お芝居での何の気持ちも入ってないキス、でもそれで俺達マジでヤバかった。てっちゃんが気づいてくれなかったら俺、今でもアイツの苦しさに気づいてなかったと思う。広臣ももし大事な子いるんだったら…ちゃんと気持ち聞いてあげな」
「…今はそういうのはいないんで」
ゴクっと焼酎を飲み干した。
「ゆきみがどれだけ苦しかったのかはゆきみにしか分らないと思うけど、あたしはいつでもゆきみの気持ちに寄りそっていたい。すっごく優しい子だからゆきみは。今まで生きてきた中で、出逢えてよかったって心から思える子だからゆきみは、あたしにとって。そう思える人ってそういないと思うの。ゆきみには幸せでいてほしい…。直人さん、本当にゆきみのこと宜しくお願いします」
凛としたその姿から目が離せなかった。
親友…なんだなって。
ゆきみさんにも行沢さんのことを聞いてみたい…―――そう思ったんだ。
「…約束する」
力強い直人さんの言葉に、行沢さんが泣きそうな顔で笑った。
―――奇麗だと思った。
「行沢さんは…いないの?恋人…」
「…へ?」
…あれ!?
俺今なに聞いてる?
やっべぇ、無意識じゃん。
キョトンとした顔で俺を見つめる行沢さん。
「や、ごめん。今の嘘、忘れて!」
顔の前で手を広げてそれを小さく振る。
「なに、広臣。奈々ちゃん気になる?」
いやそれ普通本人の前で言わないでしょ、直人さん。
「違いますって!!え〜と、そう、隆二!アイツが行沢さんのことすげぇ奇麗奇麗ってうるさいんっすよね…」
我ながら無謀な返しだと思った。
隆二がそう言ってたのは間違ってないから嘘ではない。
「ほお、隆二がねぇ〜」
絶対俺を疑っているであろう直人さんの視線を無視して俺は立ち上がる。
「便所借ります!」
俺が部屋から出る寸前「逃げたな」って面しろ可笑しいって感じの直人さんの声が聞こえた。
逃げてねぇし!!
いや、逃げたか…。
はぁ…なんかやっぱ調子狂うっつーの。