調子狂う2
「そんなことないって俺、最低な奴だよ」
ジュリと別れた後は適当に遊んだ女が何人もいる。
そーいうこと簡単にできちゃうような奴だよって。
そんな真っ直ぐな目で見ないでほしい。
行沢さんはそんな俺に何を言うこともなく「あ、ゆきみ!直人さん何してたのぅ?」ちょうど寝室から出てきた二人の所に行ってしまった。
「はぁ…」
溜息なのか何なのか、心の中にあるどす黒いものを小さく吐き出す。
そんな俺の気持ちを無視して宴は進んでいく。
何となくこれ以上触れられたくなくて行沢さんから離れて座った。
「直人さんごめん、オツマミ切れそうだからちょっと買ってくる」
まぁこんだけ人がいりゃそう続かないわな。
キッチンにいたゆきみさんがそう言うと直人さんは立ち上がって「俺も行くよ」ジャケットを羽織る。
「あ、あたしとゆきみで行きます、直人さん!」
「いやいや女二人っきりなんて危なくて出せないから。寒いし。いいから奈々ちゃんは待ってて!」
「大丈夫だって直人さん。私と奈々で行くよ」
ゆきみさんが上着を着て財布と携帯を手に持つ。
「自分行きますよ、ゆきみさん」
言ったのは隆二。
その言葉に何故かパアーっと表情を明るくするゆきみさん。
行沢さんが言ってたっけ、隆二がお気に入りって。
「んじゃ俺も行く!二人っきりになんてさせないよ!直人さんその上着俺着てもいいっすか?」
岩ちゃんが隆二と二人っきりを喜んだゆきみさんの邪魔をするようにそう言うけど。
そもそもこの人、直人さんのもんだからねぇ。
「…岩ちゃんに任せる俺もどうかと思うけど、今は信じるわ」
ここにきて余裕を見せる直人さんは、羽織った上着を岩ちゃんに渡した。
「臣くん食べたいものある?」
「いや、特に平気っすよ、すいません」
「あったら直人に言ってLINEしてね」
「はーい!」
「じゃあ行ってきまぁす」
ハートを背負った三人が出て行って、この部屋には俺と直人さんと行沢さんの三人だけ。
パタンっとドアが閉まるとシーンとなって。
「ごめんね奈々ちゃん、うるさくて」
「楽しいです」
「あー敬語そろそろやめない?俺のが一応年下だし…」
「はあっ!?そうなんっすか?」
「だってゆきみと同級生だもの」
あーそっか。
直人さんに言われて理解した。
よく考えれば分かることだろうけど、とてもじゃないけど、直人さんより上には見えない行沢さん。
直人さん自体が年齢よりずっと若く見えるけど、それ以上だと思う。
そっか、ゆきみさんの同級生だったわ、この人。
「う〜んでも…」
「そーいうとこゆきみに似てるな」
「じゃあやめる」
「そうして、そうして!」
若く見えるからてっきり俺より下だと思ってたじゃんか。
「俺にも敬語なしでいいっす」
「登坂さんもなしでいいですよ」
「いやいやそういうわけには…って散々タメ語で話しといてなんですけど…」
「あたしもそーいうのそんな得意じゃないから」
「…あーじゃあ」
何だろうか、言葉づかいをタメ語に変えるだけでも、なんとなく距離が縮まった気がする。
実際の所はわかんねぇけど。
俺と行沢さんのやりとりを見ていた直人さんがほんのり笑ってるのが気になるんだけど。
「直人さん、何っすか?」
「いや、別に…」
そう言いながらもニヤニヤ笑ってるんだけど。
「あ、直人さんエロ目だね。ゆきみがよく言ってるんだよねぇ。直ちゃんはよくエロ目になるって!変なこと考えてたんでしょう?」
「ばっか、ちげぇよ。…思い出してたの、昔を。ゆきみも俺にずっと敬語だったな〜って。次敬語つかったらペナルティーでモーニングコールして!って…」
…うわ、くっそ甘っ!
頬っぺたユルユルじゃん直人さん。