抱きしめたい
朝一でLINEに入ったメッセージ。
【好きな人と初雪を一緒に見ると、幸せになれるんだって!】
…俺のこと好き、だよね?
ユヅキ先輩…。
昨日から降り続いていた雨は、今朝ようやく雪へと変わった。
クソ寒い中チャリを走らせて学校につくと、駐輪所からユヅキ先輩が顔を出した。
「え、先輩!?」
「直ちゃんおっはよ!寒いのに手袋なし?」
ふわりと手を取られてそこにフーフー息を吹きかけている先輩にドキっとする。
俺の手、あっためてくれてる先輩だって、短いスカートで生足出して寒いってのに…
「先輩こそ寒いのに待っててくれたの?」
そう言いながら俺はユヅキ先輩の手ごとコートのポケットに仕舞う。
そんな俺の行動に嬉しそうに微笑むユヅキ先輩…―――マジで大好き。
「あれ?LINE読んでない?」
「うん、読んだ。好きな人と一緒にってヤツでしょ?」
「うん!じゃあ問題ない。直ちゃんと一緒に見れてユヅキは嬉しい…」
ほんの少し俺に身体を寄せてくる先輩は甘い香りがして…
埼玉じゃさほど降ることのない雪もぶっちゃけ嬉しいけど、ユヅキ先輩と手を繋いでるこの瞬間のが数倍嬉しいわけで。
「先輩、可愛いね…」
「直ちゃんに言われるのが一番嬉しいなぁ」
素直に赤くなる先輩のこと、抱きしめたいんだけど。
学校だし、下駄箱も違うし、二人っきりでいられるのは後ほんの数秒。
誰かが来ちゃったらそれで終わり。
まだ、彼氏彼女って枠におさまっていない俺と先輩。
周りには時間の問題だって言われるし、先輩が俺を好意的に見てくれていることぐらいは分かる。
後はいわゆる告白だけってヤツ。
友達以上、恋人未満な緩い関係もそれはそれで楽しいもんがあるけど…―――
「ユヅキ先輩…」
「なぁに?」
ギュっと先輩と繋がれた手に力を込めると自然と俺を見上げる。
寒くて鼻が赤くなっている先輩に触れたくて…
「…抱きしめてもいい?」
「…――え」
「抱きしめたい…」
「…うん、いいよ…」
俺の言葉に立ち止まったユヅキ先輩は少しだけ警戒しながらも俺を待っている。
一歩近づいて、反対側の手を先輩の背中に回すと、コテっと俺の肩に頭をもたげるユヅキ先輩…。
「直ちゃん…」
「え?」
「もっと他に言うことないの?」
抱きしめた先輩の鼓動も俺もすげぇ早鐘を打っていて、俺達が今一線を越えようとしているのが手に取るように分かった。
勿論準備していた言葉はたくさんある。
だけど、今ユヅキ先輩に伝えたいのはそう…―――
「好きだよ、ユヅキ先輩のこと。ずっと大好きだった。俺と付き合ってください」
「うん!私も直ちゃん大好き!ずっと待ってたぁ…嬉しい…」
ギュって両手で先輩を抱きしめると、先輩も抱きしめ返してくれる。
やべぇ、キスしてぇ…。
「…ユヅキ…」
感情のままそう呼んで顔を覗きこむとユヅキ先輩が白い歯を見せて笑っていて。
そのまま首に腕を回して背伸びをした先輩からチュっと触れるだけのキスが俺に届く。
「…え」
「だめだった?」
「全然」
「よかった。もうちょっとギュってしてたい…」
「うん…」
危険すぎるこの展開。
俺のギリギリの理性でなんとかもったけど、ユヅキ先輩の積極性にニヤけた顔が戻らねぇ。
降りしきる雪を見ながらふと思ったんだ。
俺達、絶対幸せへの道が、ついてる―――と。
*END*
My only one words