逢いたかった?

「直人さんユヅキさんうち来てるみたいですけど…」



ジムで身体を動かしてそろそろ帰ろうかな?って思ってたら広臣にそう言われた。

は?なんでユヅキが広臣ん家にいるわけ?

あ、奈々ちゃんか。



「舞台挨拶、別んとこ行ってたみたいですね、ユヅキさん。直人さんが浦和に来たことめちゃくちゃ落ち込んでてたみたいですけど?迷ったんですって、浦和と…」



マジか!!

うわー俺としたことが。

急に決まったからユヅキに言う暇なかったわー。

いやまぁ直己と2人で回るのも直己の負担を取ろうと思ってのことだったけど…



「臣、俺も一緒に行っていい?」

「勿論っす。連れて帰ってくださいよ?」



ニヤッて笑う広臣と一緒にバンで広臣邸に向かった。




「ただいまー」



ドアを開けると何かいい匂いで。

あー飯作ってくれてる?

やば、何か嬉しい。



「臣お帰り!あ、直人さん。お待ちかねだよー!」



奈々ちゃんが出迎えてくれてほんのり優しく微笑んだ。



「ごめんな」

「あはは、何か色々考えてたからユヅキ」

「考えた?」

「うん。色々ね」

「そうなんだ」



廊下を超えた先、吹き抜けのリビングダイニングのソファーにユヅキが座っていた。

クッションを抱きしめて半分だけ顔を隠してるその姿がめちゃくちゃ可愛いんですけど。

おいクッション、場所変われ!

なーんてな。



「ただいま」



ユヅキの隣に座ってポンポンって頭を撫でる。



「ここ臣くん家だもん」



ちょっと拗ねた顔で、もごもご言ってら。

はいはい俺、こいつの言う事ちゃんと聞いてあげるってあの時誓ったから、どんな小さなことも聞き逃すつもりはねぇから。

滅多にこうなることがないせいか、こうして拗ねてるユヅキはぶっちゃけクソ可愛い。

マジここが俺ん家なら抱きしめちゃってるだろうって。



「そうだけど、俺が帰る場所はユヅキの隣だからねぇ」



普段は考えつかないような甘い言葉だってユヅキがいればいくらでも出てくる。

照れくさいのか、余計にクッションに顔を埋めるユヅキに、クッションを挟んで軽く抱きしめる。



「ごめんな、言う時間なくて。舞台挨拶来てくれてたんだろ?ありがとう」

「………」

「ライブのチケット取れたって言ってたからてっきり行かないと思っちゃってたんだけど、」

「直人さんは参加しないと思ってたから」



俺の言葉を遮って言葉を繋げるユヅキ。



「参加する予定じゃなかったんだけど大人の事情で急遽ね…」

「私ファンだから直人さんの。みんなと同じ直人ファンだから悔しかったよ…」



恋人って立場にありながら、ユヅキはいつもチケットも自分で取るしイベントも自分で申し込んで外れたら悔しがってくれていて。

それは俺もユヅキの存在を臭わすこともないって思ってかなり有難い。

色々見て貰いたいイベントも、外れたら我慢していて。

だからファンの方の心理が改めてよく分かって嬉しかったりする。

でもやっぱりユヅキが俺に逢いたがってくれたことが何より嬉しいわけで。

ヒョイっとクッションをユヅキから抜くと「あっ」目があった瞬間カァッと紅くなる。

そのまま腰に腕を回してユヅキのおデコに俺のおデコを重ねた。



「な、そんなに俺に逢いたかった?」



ユヅキだけに聞こえるように、小さな声でボソッと呟いた。

借りてきた猫みたいに大人しくなったユヅキは、困った顔ででも、素直に「うん、逢いたかった…直人さんに…」答えたんだ。

そーいう気持ち、我慢しないでちゃんと言ってくれるユヅキもすげぇ可愛いくて。

ユヅキを知れば知るほど夢中になってる俺がいる。

一人の女にこんなにも心奪われることがあるんだって、俺自身ユヅキとこうなって初めて知った。



「素直でよろしい」

「直人…」

「んー?抱きしめてほしい?」



コクって頷くと思ってそう聞いたら「もう抱きしめてるよ」……まぁ、そうだけど。

一々聞きたいんだよね、ユヅキの言葉でユヅキの声で。



「じゃあ遠慮なく…」

「んっ」

「帰ったらユヅキだけに舞台挨拶やってやるから許してくれる?」

「……うん。色々質問するから!」

「はは、全部答えるよ」

「直人さん」

「うん?」

「ごめんね、わがまま言って」

「ばーか、こんなのわがままでも何でもねぇよ!そんなことで怒る男じゃねぇし俺!」



ギュッと強くユヅキを抱きしめると俺の肩に顔を埋めてギューギュー抱きついてくる。



「え、どうした?」

「直人さん好き…」

「どうしたのよ?ここ臣ちゃん家よ?奈々ちゃんもいるっしょ」



言われた俺のが恥ずかしくなった。

面と向かって言われることもあるけど、そーいうのはたいていベッドの上が多い。

だからってわけでもないけど、メンバーの家で、そんなこと言われるなんて思ってもなくて。



「直人さんも逢いたかった?」



俺の質問そのまま返すユヅキは、ちょっと笑っていて。

笑える元気があるならそれでいいって思う。



「逢いたかったよ、ユヅキに。当たり前だろ」

「じゃあ許してあげる」



ニコッと笑って俺の腕の中からそっと出て行ったユヅキは、「奈々ーご飯食べよ!」パタパタとキッチンで準備をしていた奈々ちゃんと広臣の方に歩いて行く。

その後ろ姿に俺は軽く微笑んだ。






*END*

My only one words