俺がずっとそばにいます
お昼休み寸前、妹の通う小学校から電話がかかってきた。
―――嫌な予感。
年の離れた幼い妹のいる私の家はそれは賑やかで。
だけど、複雑な家庭事情で母もフルタイムで仕事。
こういう時は多少融通のきく私に連絡が入る。
困ったな今日は私も忙しい。
でも熱のある妹をほおっておけない。
「わかりました、これから伺います」
そう言って電話を切ると上司の元へと急いだ。
帰り支度をしていた私の前、直行していた登坂くんがちょうど戻ってきた。
「帰るんすか?」
「…うん。妹が学校で熱出しちゃって…ごめんね、忙しいのに。その分明日また頑張るから!」
ジッと見つめる瞳は大きくて切れ長ですごく綺麗。
男の人なのにこんなにも綺麗な顔があるんだってくらい登坂くんは整っている。
言っちゃうならタイプって奴だ。
まぁそんなこと私の中だけの秘密だけど。
「大丈夫?」
「え?」
「無理してないっすか?」
…―――え?無理?
思わず手を止めて登坂くんをまじまじと見つめる。
その止まった手を不意に掴まれて…ちょっと!…って思ってるけど声には出せなくて、内心喜んでいる自分がいた。
「せっかくユヅキさんに逢えると思って早く切り上げて戻ってきたのに…。でもだから俺、仕事引き継ぎますよ…」
ニコってえくぼを見せて微笑む登坂くんに恥ずかしながらキュンっとする。
ずるいなぁ、その笑顔。
なんでもしてあげたくなっちゃう…
「ありがとう、すごい助かる…」
「でも…」
「で、でも?」
登坂くんを見下ろす私の腕を引っ張って、椅子に座っている彼の開いた足の間に私をそっと挟んだ。
こら―――――!!!
一応みんないるから!!
そう心の中で叫んだものの、今に限ってこのフロアはもぬけのから状態。
「あの登坂くん?」
「仕事終わったら家行ってもいい?」
「…家?え?なに、どういう意味?」
「逢えなかった分の穴埋め…」
…―――「からかわないでよ、独身の年上だからって…」馬鹿にされてるとしか思えない。
「からかってないですよ。俺本気しかないから…」
真剣な顔だった。
分かってる、冗談でそんなこと言う人じゃないって。
ずっと見てきたんだからそんなこと私が一番よく分かってる。
だから冗談にできたらって…
「避けないでよ俺のこと…」
「登坂くん…」
「本気です俺。ユヅキさんのことずっと見てました」
「…うん」
「もっと俺を頼ってください?」
「…うん」
「ね?」
「…ん」
そのままギュっと腰に腕を回して私に抱きつく登坂くんがその後とびっきりの言葉をくれたんだ。
「俺がずっとそばにいます」
―――この日から私は一人で無理をしないようになったんだ。
*END*
Special Thanks Love MAHO