俺じゃダメ?

本当の本当は大好きなの。


「じゃんけんぽん」

「「あ…」」

「でたでたお前ら、打ち合わせしたんじゃねぇーの?」

「してないよっ!もう…」


私と直人くんは同じサークルの仲間で、何ていうか友達以上恋人未満な関係という言葉が一番しっくりくるのかもしれない。

自分で言うのもなんだけど。

毎回こうやって、何かある度にサークルのみんながからかうせいか、直人くんに対して素直になれずにいる。

逆に直人くんも、世間で言うツンデレって奴。

優しかったり突き放されたりで戸惑うもののそれでもやっぱりこの気持ちには嘘はつけなくて。

カフェの場所取りに行くのにじゃんけんで負けた私と直人くんに、やっぱりな野次が飛び交った。


「うるせぇ、うるせぇ、行くぞユヅキ」

「あ、うん」

「待ってユヅキ」


腕をとられて振り返ると臣くん。

私に向かって300円を出していて。え、なに?


「ついでに自販で煙草買ってきて?お釣りはあげる」

「…え、足りなくない?」

「じゃあ足りない分は後で払う。持ち合わせこれしかねぇ」

「もー仕方ないなぁ」

「サンキュー」


ポンって臣くんの手が優しく私の頭を撫でた。

先を歩く直人くんの後を追って小走りでかけていくと、直人くんが同じ学科の女子に手を振っていて、なんとなく半歩以上距離をとった。

あの子、直人くんのことかっこいいって言ってたし。

なんかイヤ。すごくイヤ。

せっかくの二人っきりなのになんだか不穏な空気に思えて悲しくなった。


「直人、くん」

「あ?」


ほら機嫌悪い。

自分だって他の女に手振ったくせに。なによ。ばーか。ちーび…なんて思う私をジッと直人くんが見つめているから、心の中で悪態ついたのがバレた?


「歩くの、早い」

「…ユヅキが遅せぇんだばーか」

「ばかじゃないもん」

「ばかだよ、お前」

「なによ、自分だって幸子ちゃんに手振ってた…」

「へぇ、ヤキモチ?」


ニヤリと口端を緩めたんだ。

ついつい売り言葉に買い言葉で本音を洩らしちゃった自分を悔やんだ。

だけどそれでか直人くんの機嫌はもうなおっていて。


「煙草、買うんだろ?」


自販を指さしてそう言った。


「うん、買ってくる」

「待った。俺も行く」


ガシッてわざと私の肩に腕をかけて歩く直人くんに内心ドキドキしている。

こーいうの、私以外にやらないで欲しいな。

なんて言えないけど。


「臣…ユヅキのこと小さくて可愛いって…」

「は?臣くんが!?」

「そ。どーすんの?告られたら?」

「…どーしよ」


臣くんなんて臣くんなんて本気で言ってるわけないのに。

なにそれ。

煙草を押そうとした私の指を不意に横から直人くんが握った。

え?そう思ったら目の前に直人くんの顔があって、唾を飲み込んだら触れ合いそうな距離で…


「断って」


小さく耳元でそう言ったんだ。


「うん。断る」

「あのさ…いい加減俺も限界っつーか…」


直人くんがゴクリと唾を飲み込んで私を真っ直ぐに見た。


「俺じゃダメ?」


ずっと待ち望んでいた言葉が届いて胸がキュッと痛い。


「だめじゃない、直人くんがいい」

「だよな!知ってる!」

「私も知ってるよ?」

「だろな。ね、デートしよ」

「え、でも場所取りは?」

「そんなのよりユヅキと過ごしたい」

「うんっ!私も直人くんと」

「直人!くんはいらねぇ。そう呼ばれたい…」

「なおと…」


照れくさそうに微笑んで私の手を取る直人。

初めてちゃんと絡まる指先に、その大きな背中に私はキュッと後ろから抱きついた。

数分後にみんなからLINE攻撃をうけるハメになるけど、気にしない。



*END*

Special Thanks Love MAIKO