お前のこと好きになった
ポカッと軽くオデコをつつかれて振り返ると同期の隆二。
私を見てちょっとだけ眉毛を下げている。それから一言「臣のこと見すぎ!」困ったようにそう言われた。
「え、いや…」
無意識だったなんて言えない。苦笑いを返す私に隆二はそれでも優しく微笑んだ。
私と隆二と臣の3人は同期の中でもよくつるむ仲間だった。
私の臣への片思いを知っているのは隆二だけだけど。別に大ぴらにしていたつもりなんてないのにふとした瞬間に私が臣を見ていたことに気づかれていたらしい。
彼女持ちの臣を好きになっても報われない私の恋。でもだからって「じゃあやめます!」って言い切れるような強さなんて私には持っていない。いつまでも実ることのない想いをもう何年も抱えていた。
いい加減見切りつけなきゃ!とは思っているものの、そう簡単にできれば苦労はないよね。
「辛い?」
隆二の言葉に大きく頷きたいけど、首を横に振った。可愛らしく助けてといえる歳でもない。
でも一人はもう嫌。本当の本当は助けてほしい。
素直に言えない自分が一番嫌。
朝から臣カップルを見てしまった私はその日1日馬鹿みたいにブルーを引きずっていた。
定時間際課長に呼ばれた私に馬鹿な現実が突きつけられた。
イベント開催日付を間違えてそのまま入稿しちゃって印刷会社から仕上がった雑誌を見て悲鳴がでそうになった。
発売は明後日で今から刷り直しは絶対に無理。
訂正文章の投げ込みをすることになった。
「おう、手伝うよ!」
既に始めていた私の元に、次々と同期達が手伝いに来てくれて。
みんな自分の仕事に見切りをつけて忙しい中手伝いに来てくれていた。
臣と健ちゃんが差し入れを持ちつつ来てくれて泣きそうになる自分を必死で堪えた。
「珍しいね、ユヅキがミスるなんて。男にでもフラれた?」
悪気のない臣の言葉に苦笑い。だけど次の瞬間バンッて音とカチッと煙草に火をつける音がして。隆二が口から煙を吐き出した。
え?ってみんなが隆二を見つめて。
「あ、悪い。煩かった?」
「いやビビるから」
「………」
機嫌悪そうなのに手は誰よりも早く動かしている隆二。なんだか胸の奥がキュッとする。ちょっと怒ってくれたんだよね?
いつだって感情って感情を出さない隆二だからなんか嬉しい。
それから必死でやって、無事に終わった。
でももう終電も終わっていて。
みんな仮眠しにいったん家に帰るって。
「本当にこんな遅くまでありがとう」
「送るよ」
「…え?」
私の手を引いたのは臣…ではなく、隆二で。
何でかドキドキする。
「隆二…」
「ん?」
「さっき、」
「悪いっ!やっぱ黙ってんの無理だわ」
「え?」
なに?隆二を見つめた瞬間、影ができて…―――
気づくと隆二の腕に抱きしめられている。
最高潮、心臓がバクバク鳴っていて…
「隆二」
「お前のこと好きになった」
一言私に告げた。
それからまた隆二の温もりが降りてくる…
ちゃっかり目閉じて受け入れてる自分に吃驚する。え、私好きなの?隆二のこと。
「止めないの?止めないならこのまま続けるよ?」
「待って、ちょっと呼吸が…」
「はっ。待つ待つ」
私を軽く離す隆二を見ると、今まで見たことないくらいかっこよくて。うそ隆二ってこんなかっこよかったの?なんて思う。
あんなに臣に向いていた心が今はよく分からなくて。
「いつも独りで頑張りすぎなんだよ、ユヅキ。臣とくっつけてあげようって思ってたけど、臣の為に頑張ってるユヅキが愛おしくて。騙されたと思って俺にしない?」
しても、いいのかも?なんて思っている自分がいて。臣とくっつけようとしてくれていたのは薄々気づいていたけれど、そう簡単にいくもんじゃなくて。
「隆二」
「ん?」
「一つだけ分かってることがある」
「なに?」
「…嫌ではなかった…――キス」
「それは続きしてもいいってこと?」
「分かんないけど」
「いい方にとっとくよ。行こうぜ」
スッと私の手を取るとそこに指を絡めた。
どこに向かっているのかは分からない。でも握られたこの手は優しくて離したくないなんて思っている私が、やっぱりここにいるんだ。
*END*
Special Thanks Love yuca