本気で考えてみるから

「よかったな、朗報だ!臣、女と別れたって!」

「…え?ほんとですか?」

「おう!」


ポンポンって直人先輩があたしの髪を撫でて去っていく。

思わず顔が緩んだ。ずっとずっと大好きだったサッカー部の臣くん。他校に彼女がいたけどずーっと好きで、好き好き言い続けていたんだ。

勿論相手になんてされなかったけど。



「…付き合う?」


部活終わり。というか臣くんのサッカー部を毎日見に行っているあたしに、着替えて帰ろうとした臣くんがあたしを呼び止めてそう言ったんだ。いとも簡単に、軽々しくも。


「…は?」

「だから、俺のこと好きでしょ?いーよ付き合っても。女と別れたし…」


これって、あり?なし?大好きな人が目の前であたしを彼女にしてあげるって手を差し伸べてくれているというのに、心から喜べない。


「あたし、元カノの代わり?」

「…え?」

「あ、うううん、違うなんでもない。付き合ってくれるなら付き合いたい!」

「んじゃ、はい。家まで送るよ」


待ち望んでいた手をキュッと握ると泣きそうになった。咄嗟に嫌われたくない、逃したくないって思いが前に出て、あたしの気持ちが言えなかった。

ねぇ臣くん。あたしのこと、好きになってくれるよね?

…―――だけどそんなの、本気の恋じゃないのかもしれない。


「なんで隠れてんのよ?」

「お願い、言わないでください!」

「………」

「あれー?直人先輩、ユヅキ見ませんでした?」

「…もうとっくに帰ったと思うけど?」

「マジかよ、何も言わねぇで帰ったし、また。俺嫌われてんのかな、あいつに…」


カラカラと上履きを鳴らして臣くんの姿がいなくなってからベランダから出てきた。

その場に蹲って大きくため息をつく。

直人先輩も同じようにしゃがんであたしを見て笑うんだ。


「なんで避けてんの?せっかく恋が実ったっていうのに?」

「…そんなの上辺だけです。臣くんはあたしのこと好きだから付き合ってるんじゃなくて、たまたま別れた時にあたしの告白思い出したからで」

「…ふうん、そーだったんだ」


振り返るとそこにはいなくなったはずの臣くん。腕を組んで廊下にもたれかかっている。

その姿だけで悔しいけどかっこよくて。

ゆっくりとあたしに近寄ってくる臣くんにドキドキする。


「確かにユヅキの言う通りかもしれねぇ。ただ、何も知らずにお前に避けられてると思って必死で探した俺って、好きなんじゃないかな?とも思うんだけど…」

「え?」


ポンッと臣くんの手があたしの頭に乗っかる。そこを優しく撫でて目線を合わせるとニコッとえくぼを見せて笑った。

でも次の瞬間真剣な顔で。


「本気で考えてみるから。ユヅキが望む答えにたどり着くように。だからもう避けんなよ!俺だって傷つくぞ…」

「傷、つくの?」

「当たり前だろ。彼女に避けられるなんて」

「うん、ごめん」

「いや、俺もごめん」


チラリと臣くんは直人先輩を見るとあたしの腕を掴んで自分の方に引き寄せた。


「こいつ、一応俺のなんで。お世話かけましたー」


ペコッと頭を下げてちょっと強引にあたしを教室から連れ出した。

後ろから見ると微かに耳が赤い臣くんに、頬が緩んだんだ。



*END*

Special Thanks Love SAORI