他の人なんていらない
どんな人を見たって良平以上に心トキメく人がいない。
どうしてあたし、こんなにも良平じゃないとダメなんだろうか…。
こんなに苦しい想いをするなら、いっそ忘れたい。
奇麗さっぱり忘れたい。
誰か、あたしの中の良平を消してよ…―――
…くだらないことで喧嘩した。
テレビの絡みであの女優さんと絵になって見えて、それがちょっと悔しかっただけ。
一般人のあたしには入っていけない領域。
別に噂になっているわけでも仲がいいわけでもない、ただの嫉妬。
くだらない嫉妬。
良平が芸能人であってもなくても、きっとこういう気持ちは変わらないんじゃないかって。
こんなに嫉妬する自分なんて嫌いなのに、感情がうまくついていかない。
どうして欲しいとも言えなくて、こんな汚いあたしを良平に知られることすら嫌だった。
「最悪…」
「なにが?」
「えっ!?」
声に吃驚して振り返ると、壁に寄りかかってこっちを見ている良平。
休日の今日はあたしはお休みだけど良平は普通に仕事だからってさっき出て行ったはずなのに。
掃除をして洗濯物を干していたら部屋の中からそんな声がした。
「どうしたの?」
「ゆうちゃんの様子が変だったから…」
…なによそれ。
こんな時だけ”ちゃん”づけして。
そんな優しい目で見て。
さっきは言い過ぎてごめんねって、言わなきゃ。
心にもないこと言ってごめんねって…―――「どうしたんだよ、ゆうらしくない」良平の大きな身体にすっぽりと包みこまれる。
安心できる大好きな温もり。
あたしはこの温もりがないと生きていけない。
「ごめんなさい…ただの嫉妬なの…」
「嫉妬?」
「良平と女優さんが隣にいる姿見て、馬鹿みたいにお似合いだなって思っちゃって…悔しくてでもどうにもできなくて…」
泣きそう。
言葉を繋げるだけで、良平に自分の気持ちを伝える時はいつも泣きそうになってしまう。
他の人には感じない想いが良平には沢山あって…
うまく伝えたいのに伝えられない自分がもどかしくて、でも分かって欲しくて…
「あのさ…俺が何とも思ってないと思う?」
「…え?」
「俺だってゆうが他の男と楽しそうに笑顔で喋ってるの見て結構チクチクしてんの。でもかっこ悪いじゃん、そんなくだらないことで一々嫉妬してるから俺以外の男と喋るなよ、なんて言うの。そう思ってる自分も嫌だし、それをゆうにバレんのも恥ずかしい…――けどさ、あんま仲良くしないで?俺以外の男とは…」
「…他の人なんて、いらない!良平以外はいらないよ、あたしっ!」
ギュっと良平の腰に腕を回す。
「それが聞きたかった。俺も…ゆうちゃん以外いらねぇ…」
そう言って抱きしめてくれる良平。
結局、良平はあたしに甘い。
そんな良平に甘えるあたしを愛してくれるんだって…
幸せって、こーいうことを言うんだなって。
「仕事、午後からになったの。今朝できなかったからさ…」
そう言って誘導するは寝室のベッド。
髪を撫でてベッドに座らせられた後、迷うことなく良平の甘いキスがおちた―――
「ンッ…」
漏れた声に反応してかあたしをそのままベッドに押し倒した。
ギュっと重たい温もりにあたしは微笑む。
離れることなんてできやしないの分かってる。
「良平…すき」
「…俺も、好きだよ」
照れちゃって普段はお互いに言えない言葉も、たまにある喧嘩の後は素直に言い合うってあたしと良平だけのルール。
二人とも真っ赤な顔して恥ずかしくて、だからキスで誤魔化す。
だけど今日はもっと言いたい…
「好きっ…大好きっ…」
あたしの言葉に上から見下ろす良平は、口端を緩めて「ゆう…」小さく名前を呼んだ。
見つめ上げるあたしの頬に手を添えて「愛してる…」また小さく言って誤魔化しのキス。
甘ったるい時間の幕開け―――
あたしも愛してるよ、良平だけを。
*END*
Special Thanks Love YU