止まんねぇ―!

「え、ちょ…待って岩ちゃん…」

「……ごめん無理…」


ドサッてベッドの上に押し倒されて私を見下ろす岩ちゃんは妖艶。

サラサラの金髪が目にかかってヤバイくらいかっこいい……

って、こんな時に見とれてる場合じゃない。


ゆっくりと近づく岩ちゃんの誘惑に秒殺で負けた私はそっと目を閉じたんだ。







―――――遡る事一ヶ月前。

出逢いは最悪、だった。




「こちらえみちゃん。私のお友達。綺麗でしょ!」


……み、見たいのにうまく見れない。

だって目の前には憧れの岩ちゃん。

その隣には頼れるリーダー直人さん。

私の隣にはゆきみちゃん。

こんなのって、あり……!?



「…どうも」


ニコリともせず無表情で軽く頭を下げた岩ちゃん。

テレビの前ではいつでもニコニコ笑顔の岩ちゃんだけど、そこにいたのは全く笑顔のない……そうじゃない。

岩ちゃんはゆきみちゃんばっかり見ている。

だから言われなくとも分かった。

好きなんだって。

優しい笑顔も、甘い言葉も、全部全部ゆきみちゃんに向けられたものだった。

直人さんの愛するゆきみちゃんだけに。



「えみさんごめんな。岩ちゃんいつもはあんなんじゃないんだけど!」



ゆきみちゃんがトイレにたって、その後岩ちゃんもトイレにたったから、この個室に直人さんと二人きりになった。

気を使って私にそう言ってくれたんだろうって。



「いえいえ、私こそ無理言って予定合わせて貰ってすみませんでした」

「…今日はいつも以上にゆきみにベッタリで。前にちょっとあったんだ、たいしたことじゃないけど、岩ちゃんゆきみのこと気に入ってて」



眉毛を下げてそう言う直人さん。

なるほど、やっぱりみんな分かってるんだって。

でもそれは私が入り込める世界でも問題でもなくて、だから静かに微笑み返すだけ。


初対面のこの日、岩ちゃんは私に一度も話しかけてはくれなくて、だからもう二度はないって。

ゆきみちゃん以外に目を向ける気はないんだって、ハッキリ分かった。



でもそれから一週間後だった。

そんな私にチャンスが訪れたのは。



「初めまして登坂です!」



スッて私に手を差し出すその人、三代目のボーカル登坂広臣。

theイケメン!

生で見ると大迫力、やばい、立ってらんないっ!

よろついて壁を手につく私をジッと見つめる臣くん。



「岩ちゃん酔っちゃって大変!」



その言葉を理解するのに時間はかからなかった。

片岡邸でのパーティー。

直人さんの主演ドラマを祝してみんなでホームパーティーだってことで私も呼んで貰って。

奥のリビングに行くと岩ちゃんと目が合った。



「おーえみー!!」



はっ!?

えっ!?

両手を広げて私に向かってくる岩ちゃん。

突っ立ったままの私にガバッと抱きついてきた。

ギャアアアアアア―――!!!

想定外!予想外!対応できないっ!



「が、岩ちゃん!どうしたのっ!?」

「逢いたかったよーマジでぇ!」



ご冗談を。

あんなに私に興味持たなかったのに、どうして?



「この前はごめんね。えみちゃんのこと意識して喋れなくってさぁ…」

「……岩ちゃんどうしたの?」

「このままでいてよ。えみちゃんまで俺を独りにしないで…」



なによそれ。

なんでそんな切ない声出すの?

岩ちゃん大好きな私に言うなんてズルイ。

ギュッて岩ちゃんの背中に腕を回すと「えみ……」儚く私を呼んだんだ。

岩ちゃんがどんな想いを抱えているのか分からないけど、少しでも気持ちが晴れるならどんな岩ちゃんでも受け止めたい…そんなふうに思うなんて。


こうして私と岩ちゃんは何きっかけかなんて理由はないけど、仲良くなった。


この日を堺に私のLINEに岩ちゃんが追加された。





「順調!?」



そんなある日、まさかの臣くんからの呼び出しに個室に入った私の前に彼女の奈々ちゃんと臣くんカップルが座っていて、そんな言葉。



「え、順調とは?」

「岩ちゃん、岩ちゃん!どう?連絡取ってる?」

「あ、うん!普通に…」

「そっか。よかった」



ニッコリ微笑む奈々ちゃんはゆきみちゃんの親友で臣くんの彼女。

すっごく綺麗で女の私達の憧れでもある。

なんでそんな二人からの呼び出し?

疑問に思う私に奈々ちゃんが口をひらいた。



「岩ちゃんゆきみのこと好きだったんだけど、それは知ってた?」

「あ、何となくそうだろうなーとは思ってた。最初に紹介してもらった時かたくなにゆきみちゃんばっか見てたし、直人さんも軽くそーいうこと言ってたから」

「そっか。臣がこの前岩ちゃんと飲んだんだけどね…」



奈々ちゃんの言葉に臣くんがビールを一口飲んで私を見た。



「たぶんゆきみさんのことまだ好きなんじゃねぇかって…口には出さなかったけど、俺にはそう取れた。何度かそう思えるような感じがして、だからえみさん大丈夫かな?って…」



遠慮がちにそう言う臣くん。

だから分かった。

この二人、私を心配してくれてるんだって。

当事者のゆきみちゃんのことも守りながら、岩ちゃんと急接近してる私のこと心配してくれてるんだって。



「ありがとう、嬉しい、そうやって気にかけて貰って」

「ゆきみと直人さんの邪魔してるってことは勿論ないよ、岩ちゃん!ただ臣の話だと岩ちゃん結構本気でゆきみのこと好きだったみたいだから。えみちゃんのこと…」



傷つけたりしないかな?って、ことかな…。

口をつぐむ奈々ちゃんの頭をポンっとして臣くんが優しく微笑む。

後は俺が言うから……

とでも言いそうな、そんな顔に見えて。

臣くんの愛情を独り占めしている奈々ちゃん。

直人さんの愛情を独り占めしているゆきみちゃん。

岩ちゃんの愛情を独り占めするのは、私でありたい。



「えみさん、岩ちゃんのこと」

「本気!私本気で大好き!」



そう言ってグラスビールを一気飲みした。

ダンって勢いよくグラスを置く私を見て、一瞬固まった二人は次の瞬間同じタイミングで吹き出した。

私の中で覚悟が決まったというか。



「どんな過去でも構わない!岩ちゃんのこと受け止めたい!」



気持ちを吐き出す私に二人ともニッコリ微笑んだ。



「安心した。岩ちゃん本当に誰よりメンバーの幸せを願っちゃう奴だから、そろそろ俺達メンバーは岩ちゃんを幸せにしてやりてぇと思っててね。力かして欲しいんだ、えみさんに。どんな岩ちゃんもマジで受け止めてやって!」

「ゆきみが自信持ってえみちゃんをあたし達に紹介してくれた時嬉しかったの!みんなで一緒に幸せなろう!ねっ!?」



何でか涙が溢れそうだった。

頷く私に「よし飲もう!」臣くんの声。

帰り際、タクシーに私を乗せた臣くんは、最後の最後で私にこう告げたんだ。



「ああ、岩ちゃんとこの前飲んだ時に聞いたんだけどね……ゆきみさんより好きな女できたかもって…。俺が思うに、それって……。んじゃおやみす」



ポンポンって私の短い髪を撫でる臣くん。

それにドキッとする暇なんて与えてくれなかった。


それって、―――誰よっ!!!




それから三日後だった。

岩ちゃんからさしめしに誘われたのは。

隣に岩ちゃんがいるってことだけでドキドキするのに、カウンターに座っている私の椅子の背もたれに岩ちゃんの腕が回されていて、距離の近さに食べ物も飲み物も味なんて全く分からない。



「ねぇー聞いてるー?俺の話!」

「え、あ、聞いてるよ!」

「じゃあ目逸らすなよ?」



なんてことを!

この意地悪っ!

なんて言えないけど。

冷静を装って岩ちゃんを見つめるけど、5秒ともたない。



「あーそうやってすーぐ逸らすんだから!嫌い?俺のこと?」

「……嫌いなわけないよ岩ちゃん」

「ふぅん、じゃあ好き?」

「え?」



背もたれを掴んで身体ごと私に向ける岩ちゃんの瞳は真剣で。

酔ってるのは分かる。

でも真剣なその表情は一瞬でもシラフに戻ってるようにも思えて。



「うん、好きよ」



私が真っ直ぐ岩ちゃんを見つめて言うと「よかった…俺も好きだよ」いとも簡単に答えられた。

それって、どーいう意味?



「出よ。えみちゃんの愛が本物か確かめたい」



…――え?



「岩ちゃん?」

「だめ?」

「寂しいの?」

「寂しいよ…」

「ゆきみちゃんのことまだ好きなんだよね?」

「…言いたくねぇよ」



吐き捨てるような岩ちゃんの声。

この前臣くんと奈々ちゃんに誓った―――どんな岩ちゃんも受け止めるって。

だったら、岩ちゃんが抱えている辛い気持ちごと受け止めろ…ってこと?




「うん、分かった。いいよ私、どんな岩ちゃんも大好きだから!」



そっから先は早かった。

部屋…じゃなくてホテルの一室。

感情的に私を部屋の中に入れてベッドに押し倒す。

イエスと言ったくせに目の前の切羽詰った岩ちゃんに私の方が泣きそうになる。

キスを繰り返す岩ちゃんがそっと顔を上げるとしっかりと私を見ていて。



「何でえみちゃんが泣くの?」

「だって苦しい…――岩ちゃんが苦しいと私も苦しい…」

「…何だよそれ」

「ゆきみちゃんのこっ…
「あのさぁっ!!!!」



いきなり大声を出されてヒッて岩ちゃんを見上げる。

指で優しく私の前髪を分けると、そこに小さくキスを落とす。



「俺そこまで引きずってない。臣さんから何か吹き込まれた?確かにゆきみちゃんのことは気にいってるよ今でも。でもどう転んでもあの人が俺のもんになることなんてないことぐらい分かってる。そんな恋、いつまでも引きづってらんないよ。えみちゃんは俺を独りにしないって約束してくれたろ?」

「…うん」

「それ信じちゃダメなの?」

「うううん…」

「だったら素直に抱かせて…」

「うん」



私を見下ろす岩ちゃんは素直にかっこいい。

最初に抱いた印象はなかなか消せない。

だからその気持ちのままずっとゆきみちゃんを想っているんだって思っていたんだけど、それは私の偏見だったのかもしれない。

ドラマみたいに荒々しく私の服に手をかけて脱がせていく岩ちゃんに気持ちが高ぶる。



「岩ちゃん…」

「んっ…」

「岩ちゃん…」

「名前で呼んで?」

「…うん。た、たかのり…」

「なにその呼びづらそうなの!」



プッて鼻で笑う岩ちゃん。

だって恥ずかしくて、なんて言えない。



「慣れてよね?ずっとそう呼んで貰うんだから…この先ずっと…」



LIVEやDVDで見慣れた裸体。

されどこんな風に見下ろされる展開は脳内で思い描いていても体験できるものじゃない。

緊張して、恥ずかしくて…―――でも、離したくない。


この先ずっと、傍にいたいよ、岩ちゃん。



「えみっ…」

「ンッ…」

「ここ気持ちいい?」

「ンンーッ…」

「ハァッ…やばい…」



既に二度果てている私の中に余裕で挿りこむ岩ちゃん。

妖艶に腰を振るその姿に魅了されながらも意識まで飛びそう。

イったばかりの私の中は痙攣のように震えていて、そこを攻める岩ちゃんの腕にギュっと掴まって見つめる。

ずっと見ていても飽きなんてこないだろう岩ちゃんの顔。



「岩ちゃん…たかのりっ…私またイっちゃいそう…」

「いいよ、イって…」



岩ちゃんの言葉に、激しく律動を繰り返す。

あーダメ、もうダメ。

岩ちゃんズルイ、身も心も持ってくなんてズルイ…―――「ヒャアアアアッ…!!」三度目の絶頂を迎えた私の上、ニヤリと口端を緩めて岩ちゃんが小さくキスをくれる。

そのまま中に挿れたままゆっくりと腰を斜めに動かす…



「ちょ、待って!」

「無理」

「でもっ…」

「ダメダメ、だって…―――止まんねぇー…」





―――気づくとベッドの上で寝ていた。



「あ、大丈夫?ごめんね我慢きかなくて…」



申し訳なさそうな岩ちゃんの顔。



「私…」

「意識飛ぶくらい気持ち良かったって思っていい?」

「…ん」

「よかった」



そう言ってベッドの中でギュっと横から私を抱きしめる岩ちゃん。

ちょっとだけ浮腫んだ顔に自然と笑みがこぼれた。



「寝たの?岩ちゃんも」

「ん〜ちょっとだけね」



眠たそうに目を擦りながらもベッド脇に置いてあったスマホを手にして、開いたLINE部屋を私に見せた。



【えみちゃんと付き合うことになりました】

【ほんと!?おめでとう!!すっごく嬉しい】

【これからも宜しくね】

【うん!今度お祝いしよう、みんなで!直人さんの家でお祝パーティー!】

【ありがとう!幹事よろしく】

【まっかせて!】



ゆきみちゃんとの会話で。

ちょっと現実味が湧いた。



「これで正真正銘、俺の彼女だね。これから先もずっと宜しくね、えみ」




うん…って言葉の前に溢れだす涙を見て。岩ちゃんが照れくさそうに微笑んだんだ。







*END*

Special Thanks Love EMI