今は好きじゃなくても、好きにさせてみせる

昔っからずっと一緒の地元の仲間はいつまでたっても変わらないものだと思っていた。

社会人になった私達は学生の頃とは当たり前に日程が合わなくて。

会社でできたであろう友達だったり同期だったり先輩だったり…それぞれの時間が増えていく中、それをほんの少し寂しく思っているんだった。

そんな時だった。

盛り上げ役なお祭り隊長の直人から連絡がきたのは。

仕事終わりにロッカーで充電していたスマホを手に取るとLINEにきていたメッセージに思わず頬が緩んだ。


【こんどの土日、みんなの予定があったから海行こうぜ!一泊で海!どうよ青春っしょ!宿はもう抑えてあるから水着だけは絶対忘れんなよっ!とりあえず俺か哲也が迎に行くから!時間は朝の7時ぐらいね!】


「…朝の7時って、早すぎ!どんだけ気合い入ってんの、直人!」


つい口を出ていく独り言。

でも緩んだ頬は直らなくて、私は土日の一泊海旅行のことで頭がいっぱいだったんだ。




―――当日―――


「美月おはよ!荷物貸して!」


迎に来たのは全員で。

直人の運転で助手席のゆきみが笑顔で降りてきた。


「美月〜!久しぶり〜!会いたかったよ〜!」

「私も!!みんなも久しぶり!」

「おおお―――っす!」


一番後ろに臣と隆二。

真ん中に哲也がいて、その隣に乗り込んだ。

久々のメンバーにテンションがあがらないわけがなくて。


「てっちゃん元気だった?」

「まぁまぁ!美月は?」

「部署異動してからちょっと…」


そう言うとゆきみが振り返って「美月体調崩してて…。メンズ達、美月を労わってあげて?」数か月前にストレスで胃を壊して入院していた事実をゆきみは知っているけど、他のメンバーには心配かけたくないって思ってあえて内緒にしていた。


「マジで!?大丈夫なの?」


背もたれに抱きつく勢いで私の後ろの席の臣が身を乗り出してそう言う。


「うん今はだいぶね」

「水臭いな〜美月。いっつも一人で抱え込むんだから。何の為に俺らがいるか分かんないじゃんか!」


ポカって臣の横から隆二の全然痛くない拳が飛んできた。


「ごめんね…」


でもそう言う私に「今の顔が可愛かったから許しちゃう!」ニッコリ笑って隆二がそう言った。

そんな隆二に「甘いな〜〜!」って車内は爆笑の渦がわき起こったんだ。

やばい、すっごい楽しい!

やっぱり最高の仲間と一緒に過ごせる時間って物凄い大切なんだって…改めて実感。


「ああもう、何かすっごい嬉しい!ずっとみんなに会いたかったよ私!」

「俺も!」


ポンポンって哲也の優しい笑顔と髪を撫でる仕草に、ほんの少しだけ胸がドキンっと高鳴った。


そうやって海についた私達は早速水着に着替えてバナナボートに乗ったりシュノーケリングをしたりで思いっきり夏を満喫した。

夕方になって砂浜でBBQセットを借りてそれでまた楽しむ。


「肉は食えるの?」


臣がフォークで焼きたての肉をぶっ刺して私の口の前まで運んでくれる。


「少しなら…」

「んじゃ、あ〜ん」


そのままパクっと肉を口にいれるとジューシーな肉汁が広がって頬っぺたが落ちそうになる。


「美月、無理すんなよ?」

「え?」


不意に哲也が反対側から現れて私にお皿を差し出している。

そこには温かいうどんが入ってて。


「え、てっちゃん?」

「さっきゆきみに聞いた。胃潰瘍やった奴がそんな無理して食えねぇだろ…」


こうやって気の合う仲間と楽しくご飯を食べることは大好きで。

だから大丈夫だって…

でもさっき肉を飲み込んだ瞬間、少しだけ胃がキュっと痛んだ。


「心配してくれたんだ、ありがとう」

「隆二も言ってたけど、美月は肝心な弱い部分いっつも隠すから、危なくて目が離せないよ」


夏の海のせいじゃないよね…。

今まで友達として付き合ってきた哲也だけど、こんなかっこよかったっけ?

それとも大人になったから違く見えてるの?

この気持ちが何か考える暇もなく、一行は海で花火をし始めた。

砂浜でハートを大きく描いてゆきみにアピールしている直人がちょっと可愛い。

そんなゆきみと直人の邪魔しに行った臣と隆二。

ここには私と哲也の二人っきり。

トクンっと胸が高鳴る。


「美月…」


不意に名前を呼ばれて哲也を見ると真剣な顔でこっちを見ていて。


「なに?」

「ずっと好きだった。付き合って欲しい…」


いきなりだった。

急に言われて。

正直哲也を好きかどうかなんて分からない…

こんな気持ちのままOKなんて出せないよね。


「ご…めん私…友達としてしか見てない…」


小さな声で自信なさげに言う私にポンって哲也の手が頭に触れた。

見ると優しく微笑んでいて。


「分かった。でも…」


そう言うと一端言葉を止めて視線を外す哲也。

視線の先は砂浜ではしゃぐ直人達。


「今は好きじゃなくても、好きにさせてみせる」


静かにそう言ったんだ。

その瞬間、私の魂がドクンっと音を立てた気がして。

見つめる哲也が物凄く輝いて見える。

何だかよく分からない胸のドキドキで心臓が飛び出ちゃいそう。

フって笑って目を逸らした哲也の視線を独占したくて。

だめ、私のこと見てもっと…

ギュっと哲也の着ている真っ白なTシャツの裾を掴んだんだ。


「てっちゃん…」


私が呼ぶと、覗きこむように距離を縮めて「なぁ〜に?」って。

自分で呼んどいてなんだけど、次の言葉なんて用意できてなくって。


「なぁ〜にぃ?どうした?」


ますます私を覗き込んでそう聞いてくる。

自分がどんどん真っ赤になっていくのが分かって。


「わざとでしょ?今の…」

「なに?なんのこと?」

「好きにさせるって…そんなこと言われたら意識しちゃう…」

「意識しちゃった?」

「…ちょっとだけ…」


素直に「うん」って言えない私を見て嬉しそうに笑っている哲也。


「じゃあもっと意識して貰えるように…」


そんな声がしたすぐ後、目の前が真っ暗になった。


「………」

「………」

「おーいお前らも来いよ…―――って、ええええええええ!!」

「うわ、マジかよ!!」

「ちょっと俺達の美月!!」

「ええ、羨ましい美月!!」

「は、ゆきみお前どの口が言ってる?」

「だっててっちゃんはイケメンなんだもん!」

「それは俺だって…お、オレだって…オレだってさぁ…―――いつまでチューしてんねんっ!!」



…そっと離れる哲也は顔をしかめて「うるさいなぁ、直人…」呆れている。


「仕方ないから行く?」

「え、無理…。こんな恥ずかしい格好見せといて合流とか無理…」

「んじゃもうちょっとここで二人っきりでいよっか」

「…もう」


思い出したんだ。

哲也には敵わないってことを。

いつだって私の心を熱くさせていたのは哲也だけだったんだって。




*END*

Special Thanks Love MIDUKI