1コお願いしてもいい?

社内恋愛ご法度。

暗黙の了解…―――我がLDH渇社で働く私達は、みんな秘密の恋を繰り広げているんだ。



月に最低1度のメンバー会議。

だいたい会議の日は社長の奢りで飲みに行くことが多い。

ドラマで忙しい岩ちゃん達も今日ばかりは夜のスケジュールを開けていたんだった。


「岩ちゃん最近忙しいけど大丈夫?」


飲みの席で隣に座るのは決まって同期のユキミ。

直人さんの彼女のユキミ。

勿論知ってるのは少人数で。


「また笑顔消えてる…よね?」

「ん〜。急に映ると真顔の時多いよね、岩ちゃん…」

「気をつけてはいるんだけど、気が抜けちゃうことが多いみたいで…」

「でもファンの中でも岩ちゃんはそういう感じっぽいし…まぁLIVEで笑顔出れば大丈夫だって」


ポンってユキミの手が私の背中を軽く叩いた。


私の秘密の恋人な岩ちゃんは、疲れが顔に出てしまうタイプで。

前はそんなでもなかったんだけれど、去年EXILEに正式加入してからは、三代目との掛け持ちの大変さが身にしみているみたいで。

だからプロ意識の高い直人さん達掛け持ち組を本当にすごいと思っている。

岩ちゃんも少しでもいいから頑張って欲しい…と願わずにはいられない。





「飲んでる?」


健二郎が寝たのをキッカケに、後半戦に突入したメンバー達。

こうなるとHIROさんの力なんて弱くて、場を盛り上げているのは敬浩だったり、アキラだったり。

その中で岩ちゃん直人さん達もガンガン飲んでいて。


「眞木さん!はい、美味しくいただいています」


私達1スタッフにもちゃんと顔見せしてくれる気遣い屋の眞木さんはいつも大人で紳士で、言っちゃえば私の永遠の憧れの人。

しっとり飲んでいた私とユキミの所にやってきて笑顔をくれる。


「これ美味しいからちょっと一口飲んでみない?」


そう言って眞木さんが私にグラスを差し出す。

遠慮なくグラスを取って「いただきます」グビっと飲み干すとお酒の美味しい味が口いっぱいに広がった。

頬を緩ませて「うわ、すっごく美味しい!」そう言うとニッコリ微笑んだ眞木さんは「でしょう!」って。


「敬浩と哲也がカクテル作ってて…」

「え、試飲ですか私?」


顔の前で指差して聞くとちょっとだけ眉毛を下げて「ごめんね」そう言ってポンポンって頭を撫でられた。

途端にドキンっとして俯く私を見て眞木さんが「あっちでみんなやってるから気が向いたらおいで」そう言って又、私の背中に軽く触れるとスッと行ってしまった。


「えみってば、顔デレデレだよ〜。岩ちゃん見たら怒りそう…」

「そうかな?ヤキモチなんて滅多に妬かないけどなぁ〜岩ちゃん」

「でもちょっと楽しそうだからあっち行ってみる?」

「うん」


ユキミと一緒に立ちあがってカクテルを作っているであろう輪の中に顔を出した。



「はい、いらっしゃい。お客様何名様ですか?」


まるで店員のような敬浩の言葉に「二名です」って笑いながら答える。


「二名様ご新規です!」


大声で敬浩がそう言うと、近くにいたメンバーが声を揃えて「いらっしゃいませっ!」って叫んだ。

勿論ながらその輪の中には岩ちゃんもいて。

チラっと目が合うとニッコリ微笑んだんだ。

その笑顔に、やっぱり岩ちゃんの笑顔は何にも変えられない魅力があるな〜なんてしみじみ思っていて。


「なに?今岩ちゃん見てかっこいい!とか思ったわけ?」


敬浩に言われてドキっと見上げた。

私と岩ちゃんが付き合ってること知らないよね、敬浩は。

HIROさんと直人さんと直己だけだよね…?

地味に苦笑いを零す私に「このこの色男が!」敬浩の隣にいる岩ちゃんを肘で突く。


「敬浩さん、地味に痛いっすよ!」


そう言う岩ちゃんにちょっと笑いが起こる。


「実際どうなの?かっこいいって思った?」


そう言ったのは敬浩じゃなくて岩ちゃんで。

酔っ払った岩ちゃんは私を見てちょっと得意気な顔をしている。


「思ったか思ってないかで言うなら、思った?」

「なんだよその疑問系…」


不満そうな顔で私のオデコを全然痛くないデコピンで弾いた。

1スタッフの私とこうして岩ちゃんが絡むのは至って普通のことで。

もっと言うなら、私以外のスタッフの女の子にだって態度は変わらない。

当たり前に沢山いる女性スタッフに一々ヤキモチを妬きたくはないけど、岩ちゃんはわりとどんな子にでも気軽に話しかけちゃうから私が密かに妬いていることも多々ある。

たまには私だって彼をヤキモキさせたい。

チラッとユキミを見ると哲也に抱きつく勢いで腕に絡まっていて。

それを若干キョドった目で見ている直人さん。

…私もユキミみたいにあーやって誰かに…

そう思ってキョロキョロしていたらグイッと腕を掴まれて。

衝立の奥、死角になっている場所にあっという間に連れて行かれた。



「何する気?」

「…え?」

「全く浮気症だなぁ、えみは。気が抜けないだろ」


そんな岩ちゃんの言葉にドキッと胸が高鳴った。

むぅーって唇を突き出して頬を膨らませている岩ちゃんは見るよりも酔っていそうで。


「浮気なんてしてませーん!」

「ほんとにー?」

「岩ちゃんのが怪しいって」

「あー俺を疑うのかー?悪女め!」


顎をクイッと指で上げられて思わず見つめ合う。

ドキドキが半端なくて、もしも今ここに誰かがきたら私達の関係を誤魔化せないかもしれない。

だって岩ちゃんの顔が近い。

だからそーいう気分になりそうで…――――


「岩ちゃん…」

「なぁに…」


覗き込むように私の肩に手をかけた岩ちゃん。


「今日家行ってもいい?」

「こいつー!!全くー!!」


意味不明に目を逸らしてそんな言葉を飛ばす岩ちゃん。

そんな彼を見上げて「だめ?」小さく聞く私の耳元に顔を寄せてニッコリ微笑んだんだ。


「いいよ。その代わり…」


岩ちゃんの綺麗な指が私の頬を掠めて楽しそうに髪の毛をすく。


「1コお願いしてもいい?」

「えっ?」


そう言った声は彼の唇に飲み込まれて、そっと目を閉じた―――――


ガヤガヤいってる騒音とか、ギャハハ笑ってる声とか、カクテルをシャカシャカ降ってる音とか色んな音に混ざってこの場所だけに響く甘いリップ音。

衝立1枚の場所に限りなく沢山のメンバーがいるっていうのに私は目の前の岩ちゃんのことしか考えられなくて。


「さっき眞木さんに触られてたねー。何か妬けるー。俺がいるのにさぁー」


まさかのヤキモチに思わず顔が笑う。

こんな岩ちゃん可愛いすぎるー。

そんなことを思いながら「眞木さんが相手にしないよ私のことなんて!」ちょっとだけ余裕に言うとトンって岩ちゃんの腕が衝立に私を追い込んだ。


「えみ…」

「ん?」

「もっかいチューして」


酔っ払ってるって分かってるけど、こんな風に甘い台詞を飛ばす岩ちゃんも、ヤキモチ妬く岩ちゃんも新鮮で。

そっと目を閉じようとした瞬間だった―――――



「あれー?」


そう言って物凄く寝惚けた健二郎が私と岩ちゃんの前に立った。

うそっ!?

慌てて離れるけど、ニタァって笑ってる健二郎。


「なにしとんねんっ!」


パシッて岩ちゃんの肩に腕をかけてそう言う。


「いや、なんも…」

「オシッコするわ俺…」

「え?ダメですよっ!ここトイレじゃないですからっ!健二郎さんっ起きてっ!」


クタって岩ちゃんに身体を預けて寝る健二郎に、ホッと息をつく。

びびったー。

焦ったー。

衝立の奥から出た私と岩ちゃんと健二郎。


「あーいたいたえみー!これ飲んでみて!」


ユキミに腕を掴まれてグラスを握らされて。

そのままユキミが耳元で小さく呟いた。


「眞木さんとイチャイチャしてるの岩ちゃん見てたって直人が言ってたよ」


そんな言葉。


「岩ちゃんてば、ヤキモチ可愛いね!」


続けてユキミに言われて素直にニンマリする。

思わず視線を岩ちゃんに向けると、健二郎を亜嵐くんに任せてこっちに戻ってきた。


「なんだよ、えみさん」


ペシッて痛くないデコピンが飛んできて。

大人気な岩ちゃんも、私の前ではただの男だってことが嬉しいなって。


「なんでもなーい!あ、敬浩それ飲みたい!」


さっきのユキミみたいに敬浩の腕に巻き付いてそう言ったら、私の少し後ろで小さな舌打ちが聞こえた――――――。




*END*

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